記憶の欠片
断 片
だだっ広い工場が併設してある事務所で働いている。
社員がたくさんいる場所に、踏み込む黒い制服の人…
人間じゃない?天人?
逃げ惑う社員。
斬られる人…
血の臭いにどうにかなりそうになる。
「真選組だッ!!」
事務所に入ってきた同じ黒い制服の人々…
舌打ちをした天人が私を見つけ、刀を振り上げる。
恐怖で動けない。
「うあぁーーッ!!」
背後から切り付けた真選組に、天人は声をあげた。
「千咲!」
庇うように前に立ちはだかった土方さん。
「土方さん!」
「千咲!逃げろッ」
私を逃がそうと刀同士がぶつかり合う音。
事務所の入口には到底向かえそうになく、工場へと続くドアを開けた。
事務所の喧騒が嘘のように、工場は閑散としている。
どこか、隠れる場所は…
眩しい。
煌めく、アレは…なに?
工場の奥で何かが光っていた。
「おい」
「え」
聞き覚えのある声で呼ばれ、振り返ろうとした私は、後頭部を殴られ意識を手放した…
気付いた時には、高杉に抱えられてた。
…少し、思い出した。
私が働いていた事務所に、真選組の制服を来た天人が侵入してきて。
本物の真選組がすぐ助けに来た。
工場に逃げた私は、殴られた…
煌めく何か。
何だったんだろう?
殴ったのは。あの声は。
「晋助だ」
殴った女を匿う理由。
見られちゃいけない何かを見たから?
それにしても、今までの高杉の態度が気味悪い。
私をいたぶるどころか優しすぎるくらい丁重に扱ってくれている。
「愛してる」
この言葉も、意味を為すのだろうか?
土方さんに関しても、まだ恋人という実感は全く沸かない。
ただ、記憶の片隅に、凄く大事な何かがあることには気付いた。
記憶が戻りかけていると気付かれたら高杉は私を殺すのだろうか?
「晋助さん」
片足を立てて窓際に座っている高杉に近づく。
「どうした?記憶でも戻ったんじゃあるめー?」
窓の外を見ながら、高杉が呟く。
ドキ。
「……そう簡単に戻りませんよ」
腕を引っ張られ、高杉の腕の中に抱き締められた。
「嘘吐け」
この人には嘘がつけない。
包帯の向こうでは何が見えているのか。
「…貴方に、殴られたんですね」
「思い出したか」
私を抱き締めたまま、くっくっと喉を鳴らして笑う。
「何故、私を此処に置いているのですか?」
「…全部思い出したら分かることよ」
噛み付くようなキスをされ、抗おうとした私の腕を握る。
「俺から逃げられると思うな」
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