記憶の欠片
再 会
「真選組だ!高杉はいるか?」
また子さんと共に船に乗ろうとしていたら、以前祭りで出会った黒い制服の団体が待ち構えていた。
「晋助様はいないッスよ」
私を庇うように前に出たまた子さんが、答える。
「千咲さん?」
まただ。
黒い制服の人に、呼ばれた。
「副長!千咲さんいましたよ!」
副長と呼ばれた男、あの黒髪の男が銜え煙草で近づいてくる。
「…千咲さん、逃げるッス」
拳銃を構えたまた子さんに耳打ちされ、私は路地に逃げ込もうとした。
腕を、捕らえられる。
痛いくらい、強い力で。
「痛い…」
「悪ィ」
力は緩められたものの、握られたまま。
「来い」
鋭い眼光で見られ、私は逃げる気力を失った。
「千咲」
高杉の声。
どこ?
キョロキョロと声のする方を見ると、船の上にいた。
「そいつはおめーを殺そうとした奴だ」
煙管を吹かす口の端が笑っている。
私を殺そうとした人……
頭を抱えてしゃがみこんだ私は、黒い制服の人に、刀を振り上げられた情景がフラッシュバックされる。
「いや…殺されるッ!」
掴まれていた腕を振りほどこうとする私に、黒髪の男が悲しげな視線を送る。
「千咲。思い出してくれ…俺はおまえを殺そうとしてねェ」
「やだっ」
「俺はおまえの、」
「助けて!晋助ッ!!」
叫ぶように高杉の名前を呼ぶ。
なぎ倒されていく黒い制服の人たち。
高杉ではなく、岡田さんだった。
「…俺は土方十四郎だ。おまえの、恋人だ」
名前を聞いた途端、胸が鷲掴みされる感覚。
でも。
「ご、ゴメンナサイ。思い出せないの…」
「そうか…」
腕を離した土方さんを仰ぎ見る。
「もう、忘れてください」
「忘れねェよ。おまえが俺を忘れてよーが」
自嘲気味に笑うと、銜えていた煙草を投げた。
涙が頬を伝い、自分でも何故泣いているのかわからない。
「あいつがおまえを離さねェわけがわからねェ。
あの時、仕掛けてきたのはあいつだ」
刀を抜くと、私を路地へと押す。
「逃げろ。あいつのところには戻るな」
「でも、行くところが…」
「まっすぐ走れ!真選組が待機しているはずだ」
「土方さんは?」
「おまえを守る」
「誰が守るだって?」
高杉が何時の間にか私の背後に現れており、腰に手を回す。
「こいつは俺がいいんだとよ。雑魚は散れ」
刀を抜く間もなく、高杉はひらりと私を抱えて海へと飛び込む。
浮遊感に目を閉じたものの、そこには小型の船が用意されてあった。
また子さんも乗ると、出発する。
涙が止まらない私に何も言わず、高杉は肩を抱いてくれていた。
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