10
優しい温かさを手の甲に感じた。
すぐに離れていったその温もりに縋りそうになった。
それを制したのは、自分の名を呼ぶ彼の声。
「架恋様」
ああ、なんて。
「数々の無礼、失礼しました。使用人として出過ぎた行為です。ですが、今言ったことに偽りはありません。それをどうか忘れないでください」
心地いいのだろう。
「架恋様?」
「え、あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって…」
はた、と気付く。
自分は一体何を。
「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした。そろそろ失礼させて頂きますね」
「あ……」
てきぱきと、飲み干した紅茶の片付けを始めるフェイに何か言いたかったが、言葉が出てこない。
結局何も言えないままフェイは退室してしまった。
ぽつんと、取り残された気分になる。
少しの後悔がもどかしい感情となって胸に沸き起こる。
バタンとベッドに倒れこんで、深いため息をついた。
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