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「オレンジだね? 毎度っ」
「ありがとうございます」
お金を払い、売り子から渡されたオレンジジュースをフェイが受け取る。
「(確か架恋様がお好きだったはず…)」
フェイは以前、食事の時架恋に、飲みたい物は何かと訊いたら少し戸惑いがちに「オレンジジュース」と言ったのを思い出す。
「ふふ」
思わず洩れる笑み。
こぼしてしまわないようにと、手元に注意を払いながらフェイは架恋の下へ向かった。
しかし
「架恋様……?」
戻ったその場所に架恋の姿はなかった。
さっきまで彼女が座っていたベンチは、今は誰も乗せていない。
辺りを見回しても彼女はいない。
漆黒の闇が在るだけだ。
一体、何処に。
「――っ!!」
一気に襲う、焦燥感。
「架恋様…!」
持っていたジュースが手から落ちたことなど気にならなかった。
激しい焦燥に駆られるフェイだったが、同時に彼は自分が何をすべきかを瞬時に理解した。
「――――」
目を閉じ、乱れる心音を整え、精神を集中させる。
フェイのこの行動は、この世界の君主に仕える者としての彼の器量からくるものだった。
「――――!」
やがて、ふわりとそよぐ夜風の中に架恋の“香り”を見つけた。
閉じていた瞳を開け、フェイはその香りの導く方へと駆け出した。
笑みのない真剣なその表情は、誰も見たことのないような彼のそれだった。
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