10
――綺麗。
一瞬、架恋は恐怖を忘れて男の妖艶なその容姿に見惚れた。
しかしそれは一瞬の事で、風に揺れる木々の音が鼓膜に届き、現実に戻った架恋にすぐさま恐怖が甦った。
男は架恋にも分かる程、静かな殺気を放っていた。
「いや……」
惨めな命乞いの言葉を吐きそうになるのを、自尊心がぎりぎりのところで抑え、代わりの言葉を吐く。
だが、男は何も言わずに架恋の腕を掴んだ。
「っ、きゃ…!」
無理矢理架恋を立たせ、その反動で架恋はバランスを崩し、不覚にも男の胸に飛び込んでしまった。
「っ…!!」
咄嗟に逃げようとするが、背中に腕を回され、動きを封じられてしまった。
目の前に、美麗に整った顔がある。
――怖い……!!
その想いが脳を支配し、架恋は必死に抵抗した。
だがそれはまるで意味を成さず、ただ男の腕の中でもがくだけになった。
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