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実卓TRPG セルフ二次創作
紺碧い瞳の話(黒の少年:碧涼)
※碧涼の出会い妄想。
微ファンタジーぽいねつ造が入っているので、こういう世界線もあるのかもなってくらいのパラレルワールドとして読んでください。



――――――――――――――――――――――


誰も彼も。こんなところにまで来てまでも。
ニコニコと媚びへつらう気持ち悪い顔でこちらを見てくる。

利用してやろう。お近づきになっておこう。唾をつけておこう。
そんな感情がその笑顔に泥のように醜くこびりついているのに、ちっとも気づいてはいないのだろう。

俺も気づいていなかった。少し前までは何もわかっていなかった。
騙されたのだ。利用されたのだ。陥れられたのだ。



俺は数日前に誘拐された。父の部下だったやつにだ。
なんてことはないよくある話だ。金持ちの子供のテンプレとも言っていい。
兄のように慕っていたはずの男の変貌に戸惑うばかりで、何の防衛行動もとれなかった。
「信じてもいいのは身内だけ」と、あれだけ父に言い含められていたにも関わらず、だ。

3日。監禁されていた。
食事の不足によりすっかり落ちてしまった体重と、何より精神的な傷の治療ということで今は病院に押し込められている。
金持ち専用の病院らしい。セキュリティーも厳重で、スタッフも信頼のおけるものということだが、なんてことはない。御曹司という肩書しか見えていないようなやつばかりだ。


もう誰も、信じるものか。



*****



院内図書館にそいつはいた。
色のついた眼鏡をした、ひょろいやつ。
そいつはいつも、人から隠れるように本棚の隅の方で縮こまって本を読んでいた。

「お前、目が悪いのか」
話しかけてから しまった と思う。ここで誰かと関わるつもりはなかったのに、何をしているんだろう。
その妙な出で立ちに興味を惹かれてしまったのだ。

そいつは俺に話しかけられて驚いたように数拍硬直したかと思うと、サッと目を逸らされる。
「違うよ。……これは、目が悪いからかけてるんじゃない」

そう言って口を閉ざした。こちらに視線を戻す気配はない。
あまりにそっけない態度にムッとするが、気安くされるよりはよっぽどマシだと思いなおす。

ふんと鼻を鳴らしてドカリとその場に座り込む。「あっちに行け」とは言わなかったこいつが悪い。
途端おろおろと視線をさ迷わすような様子に溜飲が下る。俺はそのままここで本を読むことにした。



*****



次の日もその次の日も、そいつは人目を避けるようにそこにいた。
俺もそこが定位置のように居座る。互いの間に会話があるわけではなかったが、少なくとも俺の方は居心地は悪くなかった。

そしてある日、ついに俺の退院の日が決まった。
こいつにそのことを話す義理はない。そう思ったが、数日間顔を合わせてなんとなく情というものが湧いていた。
この数日を振り返ると、俺はこいつを通学路で毎度すれ違う猫のように感じていたのかもしれない。そのくらいの、薄い情だ。

いつも通りにあいつの居る場所に赴く。目の前で仁王立ちするが、ひとつもこちらを見ることはない。情が湧いていたのはこちらだけだったか、と苛立つ。
「明後日、退院することになった。お前の傍は、まあ、悪くなかった。 元気でな」
そう告げても、どうせ初日のように淡白な反応が返されるだけだろう と思った。

しばし反応を待つが、特に何を言うでもないようなので「スルーされてたか」と、やや落胆気味にその顔を見下ろしてみる。
しかしこいつの反応は予想とは違っていた。縋るような眼を向けてくるのだ。無言で、耐えるように。

――そうか、猫ではなくて犬だったか。場違いにもそんなことを思った。


「なあ」
ふと 声をかけてしまう。しかし、特に何を言えばいいのかも分からない。
世間話や身の上話をするような関係でもない。
開いた口を閉じるのも躊躇われ、苦し紛れにずっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「目が悪いわけではないと言ったな。そんな色のついたレンズだと本を読みにくいんじゃないのか」

「……これは、その、目を。目の色を、隠すために」
そう言ってそいつは2度、3度と眼鏡の蔓を弄りながら、躊躇いながらその色のついた眼鏡をはずした。
そこにあったのは鮮やかな、しかしやや暗いとも感じられる瑠璃色の瞳だった。

「何だ綺麗な色じゃないか」

「……ありがとう。でも、」
照れたようにはにかむ表情には、今までの素っ気なさからは感じられなかった可愛げがあった。
なんとも素直そうなやつだ。今まで近くにいたやつらとは違う――
「この目は、変なんだよ」
「この目は、僕に隠し事をさせてくれないんだ」


彼曰く、
喜んでいる時は目の光彩が明るく、怒っている時はやや赤く、悲しんでいる時は暗くなる。
そして嘘をついているときはより鮮やかに、濃くなるのだという。
彼の話を聞きながら、その目を見つめる。もしかしたらこの暗い瑠璃色は、本来もっと明るく美しい色なのかもしれない。

俺の無言をどう感じているのか、彼は時折どもりながらも続ける。
自分はこの体質のせいで嘘をつくことができない。
嘘をつくことなんて必要ないと思うかもしれないけれど、時にはそれが必要な時がある。
自分の意図しないところで人を傷つけてしまうのではないか。人と関わることが怖くなってしまった。 と。

寂しい。寂しい。寂しい。
彼からひしひしと、伝わってくる。その感情には覚えがあった。


「……俺は人に嘘をつかれるのが嫌いだ」
目の前でこいつがビクリと体を揺らすのがわかる。俺はそれに気づかないふりをして続けた。
「常にお前の本心が分かるのなら、俺にとってお前だけが信用に足る人間だ」

「お前が本心を伝え続けてくれる限り、俺がお前を嫌うことはない」
ハッとしたように目を見開いている。なんとも分かりやすく、――気分がいい。

「ずっと一緒にいてやる。お前の寂しさを埋めてやれるのは俺だけだ」
彼の目に明るい青が混ざるのがハッキリと見えた。



*****



こんな時になって、出会った頃を思い出す。こんな時になったからこそ、なんだろうか。
目の前の碧に……宝王に、あの頃の面影は少ない。

その悲しんだ表情に、期待する目の色が 見えない。



碧の目は成長とともに、その変化を弱くした。それでもよかった。弱くとも自分にはその違いが分かるから、と。
しかし、中学も3年になると、その変化は本人にも認識できないほどに、 なくなってしまったのだ。
そのころには碧の性格も明るく、涼より随分と社交的になっていた。涼以上の『万能さ』に周囲の皆惹かれていた。
それに比べ、俺は……。


「お前の目がずっとあのままでいてくれたらよかったのに」
「そうしたら、ずっとお前を信じることができたのに」
吐き捨てるように言う。今は、俺の方が宝王を真っ直ぐ見ることができない。

「……俺はずっと。この先だってずっと、涼に嘘をついたりなんかしないよ」
何かを耐えるように、絞り出されるその声は痛々しい。しかしその目は――


そんなに切なそうな表情で、俺のことを見ないでくれ。
信じたい。嫌いになりたくない。

「嘘だ」

信じている。嫌われたくない。




でも俺は臆病だから、俺はこんな風になってしまったから、
今はもう、お前のことを好きだと言うことができない。

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