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実卓TRPG セルフ二次創作
夢の終わりの話をしよう(黒の少年:碧涼)


「じゃあ――グアムに行こう。決まり!」
意識が浮上すると俺の口は自然とその言葉を吐いていた。


さて今回はどういう話をしていたのだったか。
ただただ楽しい話を、そう、どこか遠いところに行こうという話をしていたのだったか。
毎度ここに来るときは突然だ。ふと気づくとここにいる。白く、もやのかかった……涼と俺だけの世界。
これがただの夢なのか、それとも特別な何かなのか。特別な何かであって欲しいと思っている俺はどこかおかしいのだろう。それこそ夢見がち、というものか?と自分の考えに頭の中だけで失笑する。

「グアムか、そうだな。それもきっと……楽しいだろうな」
そんな雑念にはまるで気づいた様子もなく、毒を吐かない涼は素直な言葉を返す。
しかしその表情はどこか諦めたような、自嘲を含んでいるように感じ 首を捻る。その動作だけで云わんとしていることが伝わったらしい。涼は表情を変えずに口を開いた。
「事業の視察で海外へ着いて行ったことはあるが、旅行には行ったことがない。旅行に行きたいと言ったところで父が許さないだろうな」
そこまで言って涼は一度口をまごつかせた。必死に言葉を選ぶ様子がいじらしい。

「だから」
「約束は、できないな」
呟くような声は 霧に溶けて消えた。


「……大丈夫! 俺に任せといて。絶対にグアム、連れていくから!」
涼はきっと旅行になど行き飽きていると思っていた。これは尚更にでも連れていかなければならないだろう。
どこか、遠く。涼を縛るものが何もないところへ、俺が連れ出すんだ。

「……そうか。じゃあ期待せずに……いや、楽しみに待っている」
やはり涼は困ったように笑うのだ。どう言い募ろうとも。期待など端からしていないのだとでも言うように。


******


じっとりと汗をかいていた。肌寒さすら感じるこの時期だというのに。急に身が凍るような寒さを感じ、ブルリと体が震える。
習慣のように目覚まし時計に手を伸ばすが、それがまだその仕事を始めてはいないことにはたハタと気がついた。

朝、5時過ぎ。
再び頭は枕へとダイブする。しかし目覚ましが鳴る前に飛び起きた脳は、喜びと、決意と、悲しみを、深くそして新鮮に、鮮烈に記憶している。そして逃避を許さないとでも言うように反芻するのだ。

――悪夢などではなかった。決して。……悪夢であってたまるものか。



ぼんやりと天井を眺めていると視界にチカリ チカリと赤い光の点滅が映る。
スマホにメッセージが入っている。時間は、つい先程だ。きっとこれが自分と彼だけの世界を邪魔した犯人なのだろう。


こんな時間に、誰からだ。
緩慢な動きでスマホのロックを解除すると、飯塚から一件のメッセージが入っていた。
通知にはその途中までの文が表示されている。

『すずみんこと、今日の全校集会で言うよ。事故だったって誤魔化すつ――』
思い出したくなかったものがゾッと足元から駆け上がる。咄嗟にスマホを投げ飛ばした。その続きを見てはいけないような気がして。


無理やりにでも寝よう。
そうして、そうして起きたら、いつもの日常が。涼に邪険にされて傷ついて、たまに見せる素直な面に守ってやりたくなって、そんな日常が きっと。
ああいや、それとも――あの暖かな霧の中の世界こそが俺の戻るべき日常だったっけ。

どこが夢の切れ目なのか それすらももう  曖昧で 




******


「ねえ、涼は今までの生き方に、後悔はない?」
俺の問いに、涼はただ曖昧に眉を下げるだけだった。

これがいつもの涼なら。「後悔などあるはずがないだろう、馬鹿にしているのか」と憤るのだろうか。
でもそれはきっと、必死に何かを押さえつけるような言い方なんだろう。

俺が言ってほしかったのは。俺が聞きたかったのは、それじゃなくて。


「俺にはあるよ。たくさん」
涼に伝えたかった言葉も、涼から聞きたかった言葉も。
……ここでならそれを伝えることが、聞くことができるのだろうか。




夢はいつか覚めてしまう。ならきっと、先に終わってしまった方が夢なのだろう。

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あきゅろす。
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