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実卓TRPG セルフ二次創作
夢の続きの話をしよう(黒の少年:碧涼)




「や、涼。また会えたね」
いつも通りの場所にそいつはいた。

……ここでこうして宝王に会うのは何度目だろう。夢の境界はひどく曖昧で、これが2回目なのか3回目なのか、はたまた10を越しているのか。

俄かに覚えているのは……そう、寒さ。この夢の始まりはいつも寒い。
身の凍るほどのそれは忘れたくても忘れられない。避けようと離れようとしても、結局は暖い方角に――宝王の居るであろう場所に歩を進めてしまう。
そしてあともう一つ。“あの”言葉だ。

夢の中でだけ会える宝王の顔をした誰か。彼はあの時以来「逃げよう」などとは言わなかった。

気まぐれだったのだろうか。揶揄われていたのだろうか。その問いに対する答えをようやく見つけたというのに。
長い空白の末、その決意も風化するようにかすれていた。
彼はきっと、もうその話題を出すことはないのだろう。そう思って忘れようとしていた。





「ねえ涼。 あの事、ちょっとは考えてくれたかな」
特に面白みのない世間話が途切れると、宝王がどこか言いよどむように口を開く。
「……何のことだ?」

「二人で逃げようって話。……ひょっとして、覚えてない?」
困ったように、どこか諦めたように、宝王は俺の顔をのぞき込んでくる。

無かったことにされているのだと思っていた。予想していなかった言葉に、思わず宝王をまじまじと見つめ返してしまった。
数拍の沈黙ののち、ごまかす様に視線を外す。
「に…げるって、どこに」

「うーん、どこがいいかな。やっぱり北海道とか沖縄とかがいいかなぁ。ほら、本州離れたら『逃げた』って感じしない? それとも国外の方がいいかな」
あくまで軽く、いかにもそれが魅力的なことであるように語る。その誘惑に乗ってしまいたいと、かつての決意が揺らぐ。

それでも、
「……ダメだ、逃げられない。逃げちゃいけない。俺には、手放せないものが多すぎる」
「その手を取れば楽になれたのかもしれない。それでも……逃げたくないんだ」
俺の答えに、この宝王がどう応えるのかが怖かった。臆病者だと罵倒されるだろうか。期待はずれだと呆れられるのだろうか。
目を閉じてその時を待った。



「そっか」
場違いな明るい声が霞の世界に響く。
「じゃあ、そうだな。旅行にでも行こう!」

「…………はあ?」

「そんな暗い顔しないで、気分転換 気分転換――……って、涼のためみたいに言ってみたけど、そうじゃないな。これは俺のために!」
ポカンとしていると矢継ぎ早に宝王が言葉を続ける。
「……いいじゃないかー。俺の渾身の告白を振ったんだし、そのくらい俺の我がまま聞いてくれたっていいんじゃない?」
子供のように口をとがらせている。
これは彼なりの気遣いなのかもしれない。俺が怖がらないように。罪悪感を持たないように。


「駄々っ子か、お前は」
「……でも……まぁ、そういうのも、いいかもしれないな」
つられてか、ふ と自然と笑みが浮かんだような気がする。




******




「なんでこうなったんだ」
くらりと襲っためまいを抑えるため眉間を押すが、まるで効果はなかった。

俺は今、空港にいた。決して自分の意志で来たわけじゃない。
夏休み中でも生徒会の仕事はある。朝、学校に行こうと家を出たところで黒服の男数人に車に押し込められたのだ。

そして現在。目の前にはキラキラとおおよそ人間から聞こえてくるとは思えない音が聞こえてくるほど上機嫌な宝王。……直射日光も相まってあまりにも眩しい。とても朝一からは見たくない顔だ。
そんなどうでもいいことを考えていると、ふと気が付くと男たちと車は姿を消していた。

「さっきの男たちは?」
「ああ、あれはうちの人達。もうお仕事は終わったから帰ってもらったよ」
腹立たしいくらいの笑顔で、何のけなしに言う。
通りで俺が攫われようとしている間、ボディーガードが訳知り顔で親指を立てていたわけだ。
あいつも宝王に買収されていたのだろう。絶対に後悔させてやる。


「何故こんなことをする」
「ん?だって旅行行こうって話したよね」
悪びれる様子もなく宝王が言う。しかしまるで身に覚えのない話だ。

「妄想も大概にしろ。俺と宝王でそんな話が出るわけないだろ」
その言葉に宝王は一瞬傷ついたように眉根を寄せるが、瞬きののちにはいつも通りの笑みに戻っていた。
「…………ま、いいじゃないか!気晴らしが必要なんだって」
「ちょっとだけ、今だけ。俺のわがままに付き合ってよ」
強く手を引かれる。ここまで来てしまうと抵抗するのも馬鹿らしかった。


「……大丈夫。これも全部、夢だから。俺の、夢だから。だって   は――」

「……? 何を言っている」
「ううん、何でもないよ」
手を引かれたまま、チラと伺い見たその目には涙が浮かんでいた。俺にはその理由は分からない。


「涼、きっと行先も覚えてないんだろうなぁ」

「これから向かうのはね――」





どこから夢で、どこまでが現実か。境界線は曖昧に。





※縁起でもないけどどっちか、もしくは両方がロストした場合の“夢の続き”
これは死人が見た夢なのか死人を思って見た夢なのか。はたまたこれが死後の世界なのか。
碧のセリフ内の空白にはロストしたどちらかの名前が入ることでしょう。


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あきゅろす。
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