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実卓TRPG セルフ二次創作
夢 (黒の少年:碧涼)




「――はぁ」
父が苦々しい表情で息を吐く。
先日の期末試験の結果を見て。そこにはありがたくもなく学年順位が記されている。
決して悪いわけではない。しかし父も察しているのだ。
俺の上にいるのが宝王であることを。

「もうお父さんったら厳しすぎよ! 2位なんて凄いじゃない!私が学生の時なんてそんな順位とったことないわ」
とニコニコと父を宥める母の姿に情けなさが募る。別に俺を憐れんで庇い立てしているわけではなく、彼女の本心からの言葉であることは分かっている。それは別に嫌ではないのだ。
しかしそれとこれでは話が違う。俺は母に擁護される必要もなく、父の期待に応えられる自分でありたかった。

父はその日、それ以上のことを言うことはなかった。
彼の気難しい表情を見つめながらとる食事は、母のいつもより気合の入っているそれであっても味気なく感じた。



******



白くかすむ視界、自らを包む靄以外は何も認識できない。
俺は一体どこを目指して歩いているのだろうか。ヒヤ と手足の先から冷えていく感覚。徐々にかじかむ手を擦り合わせた。
しばらく目的もなく進んでいると、ふいに裂けた靄の先から暖気が漂ってくる。
あっちには何かあるのだろうか? ボヤリとした頭のまま、暖を求めそちらに足を進めた。

「あっ、涼? どうしたのこんなところで」

「…………」
なぜ夢の中でこいつに会わなければいけないのか。
暖気をたどった先にいたのは件の宝王だった。夢の中だというのに心底驚いたような顔をしている。

「宝王こそ、俺の夢の中まで出てくるなんて嫌がらせにもほどがあるんじゃないか?」
正直、今一番見たくない相手だった。
俺のあからさまな暴言に宝王は困ったような表情で「はは」とあいまいな声を漏らす。文句の一つでも返してくればいいのに、と思う。
ふと気が付けば凍るような体の冷たさは見る影もなくなくなっていた。

「ねえ、今日はまたなんでそんな辛そうな顔をしてるの?」
「……お、」
お前のせいだ、と言いそうになった。……言えるわけがない。この状況は自分のせいでしかないのだから。思わず口をつきそうになった言葉を飲み込む。
――でも、そうじゃない言葉を言うのなら。夢の中でくらいなら……素直に話をしてみるのもいいのかもしれない。どうせ、夢が覚めるまではこいつと一緒にいなければいけないのだから。

「……期待に応えられなかったんだ。俺はずっと、お前を超えられない」
故意に堰を切る。宝王の前だというのに意外なほどにスルリと言葉が流れ落ちた。
「それをずっと気にしてたのか?」
「…………そう、だな」
本人を目の前に、このことに対し肯定するのには多少抵抗があったが、所詮は夢だ。こいつは宝王の顔をしているだけに過ぎないただの張りぼてだ。

「……。涼は昔から努力家でさ、なんでもできて……俺なんかよりもずっとできることも多い。むしろ俺のことは気にも留めていないのかと思ってた」
「もしそうだったら、こんな刺々しい対応はしていないだろうな」
お前の顔でそんなことを言われるのが一番情けなくなる。とは流石にプライドが邪魔して言えなかった。

「もしもさ、俺のことが嫌いなわけじゃなくて、俺と比べられたりするのが嫌なんだったらさ、」
「俺と、逃げちゃわない?」

「は?」

「誰も何も言わないところに行くんだ。俺も涼も、お互い得意なことだけをしていればいい」
「……」
予想外の言葉に思わず目を見張る。
何を、言っているんだこいつは。耳を貸すな と警鐘を鳴らす音が頭の奥、遠くに聞こえる。
違う。これは宝王が言っているわけじゃない。俺の夢がそういう言葉を吐き出したのだ。

夢の中で、“そんなこと”を言われるということは、これが自分の本当に願っていることなのか?いや、違う。そんなはずない。

「なあ、これ、いい考えじゃないか?」
宝王は笑っていた。彼は何から逃げたいのだろう。……違う。俺が逃げたいのか?俺が逃げたいのは――


ハッと、目が覚める。悪夢だったのか、額を滑る汗が髪を濡らしていた。
内容はよく、覚えていない。














今日はいつもより宝王からの視線を感じることが多かった、気がする。自意識過剰だろうか。
しかし現在、彼は何かを言いたげに見つめてきている。罪悪感を感じながら、不自然に見えないよう背を向けた。
「」
逃げるように生徒会に向かう俺に小さく声をかけられた気がする。きっと、気のせいだ。



「涼……また、夢で逢おうね」


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