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実卓TRPG セルフ二次創作
ある夏の一幕(黒の少年:碧涼)




「宝王くん、それじゃあ悪いけど」
担任の安西に「これお願いね」と一冊の冊子を手渡された。生徒会の文書らしく中は見るなと念を押されている。
「はい。任せてください!」

届け先は今日学校を休んでいる同級生の癸 涼。高校1年にして生徒会補佐の役職についている彼は、碧の昔からの知り合いだ。
決してお互いの家が近い訳ではないが、彼は家柄のよさ(だけならよかったのだろうが)と、取っつきにくさからクラスメイトから萎縮されており、他に引き受ける人間が居なかったのだという。

「(俺はその涼に疎まれているわけだけど)」
関わって日の浅い担任はそのことを知らない。いい機会だと碧はニヤ と笑った。


******


冊子と見舞いの品をいくつか持ち家を訪ねると、涼の母親は快く家に上げてくれ、それどころか部屋に寄っていけと言う。
昔馴染みで顔が知れているとはいえ不用心だと思う。

「涼ー!お友だちが来てくれたわよー!」と上品さを損なわない範疇で大きな声を上げる涼の母親に、応える返事はない。
しかし彼女は笑顔を崩さず「どうぞ上がって行って」と言う。碧は反射のように首を縦に降っていた。

若干の戸惑いと、拒否されるのではという緊張で手に汗が滲む。逸る心臓を上から押さえつけて扉をノックした。

コン、コン
中からの返事はない。
「――寝てる、の?」

「入るよ?」
恐る恐る開いたドアの先を覗く。どうやら本当に寝ているらしい。
相当疲れているのか、もしくはまだ熱が高いのかもしれない。碧は申し訳ないと思いながらもソロリと忍び足で部屋の主のもとへと向かった。

「はは、寝てると案外幼いんだなぁ。普段眉間に皺寄せすぎだよ」

「ふふん」
しめた、とばかりに鼻を鳴らすと耳元に口を寄せ囁く。
「すずみー『友達』が来てやったぞー」

「なーんて、一回言ってみたかっただけ。ごめんな」
にひひと照れたように笑いながら顔を離す。

「あ、あとこれ冷えピタ。残りは生徒会の冊子?とアイスと一緒にお袋さんに渡しといたから」
緊張で震える手で、一枚母親に渡す前に箱から出していた冷えピタを貼る。端が少し拠れてしまったが直す余裕は今の碧にはなかった。
「早く元気になって学校来いよ。……いや、来ない方がしっかり休めていいのか?」


「じゃ、しばらく学校に来るんじゃないぞ!」
碧はスッと立ち上がると、相手が見ていないのは承知で手を振り満足そうに部屋を出た。
一連の行動は一方的なものとはいえ、普通の友人同士のようなやりとりのそれだっただろう。


******


「学校に来るなって、……どういう意味だ」
涼はヒヤリとした額の感覚と、間近に聞こえた心地のよい声音に意識を覚醒させた。ぼやりと霞む思考の中で声の主を認識する。

途端ぶわりと沸きだした汗は熱からのものだけではないだろう。
そして何を言うかと神経をとがらせれば「学校に来るな」だ。涼は碧の意味のわからない言動に憤った。

少し寝て多少起きる気力の湧いた涼が自室のある二階からリビングへと降りると、待ち受けていた母から差し入れに貰ったのだというアイスを押し付けられた。

嫌がらせの延長かと思えば、腹立たしいことに涼の好きなアイスだ。悔しいが美味しいものは美味しい。
そして同時に混乱する。「学校に来るな」という言葉は敵意でなければ何なのだ。差し入れからはただただ善意しか感じない。


「……まあいい。明日からまた遅れを取り戻さなければ」
頭をふって煩わしい思考を止めた涼は、その勢いで落ちかけた少し端がしわになっている冷えピタに気づいた。
なんとなしにそのまま上から押さえる。
いつの間にこんなものを貼っていたのか。と疑問に思いながらも、届けられた生徒会の書類に目を通しながら自分の席に溜まっているだろう書類に想いをはせた。

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あきゅろす。
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