桜の花精
この花が散ってしまう前に、もう一度、君の笑顔が見たい。ぼくがこの世界にとどまっていられる時間は、この花が散ってしまうまでだから。
ああ風よ、吹かないでくれ。もう少しだけ、ぼくに時間を……
――あ、彼女だ…!
「わあ、綺麗……」
君のガラスのような瞳に薄紅の花が映る。その瞳にぼくの姿が映ることはないけれど、最期に君に会えてよかった。
ああ、風が吹く。
花びらが散っていくのと同じくして、ぼくという存在も散っていく。消える間際、そっと君の頬に手を伸ばした。
さよなら。
――さよなら………
………………
「――今、声が聞こえたような……」
辺りを見回してみたけれど、近くには人影は見当たらない。どこか遠くの声を風が伝えてきたのだろう。
ふいに、涙がこぼれた。
「あ、れ……?なんで涙なんか……」
わけがわからず、ただ呆然とする。でも、なぜだかとても切なかった。
風に花びらが舞う。
儚さと美しさと、切なさを歌いながら――
end
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