ちいさなおはなし
黒ネコのしっぽ
 悲しさも通り越してしまって、ため息しか出なかった。ラジコンを手に取ろうとかがんだ時、木の向こう側に黒いモールみたいなのが動くのが見えた。近寄ってみる。
「ネコだ!」
 真っ黒なネコがしっぽをぴくぴくさせて寝っころがっている。こんな陽も当たらない寒い影で、どうしてネコが寝っころんでるんだろう。
 でも、ラジコンが当たらなくって良かった。当たってたらきっと今ごろはこの黒ネコみたいにぐてんとのびている……。
「大変だ!」
 とにかく具合を見てみようと黒ネコに近づいてどきりとした。もう黒ネコのしっぽは動いてなかったから。
 なるべく余計なことを考えないようにして、ふるえる手が黒ネコを取り落とさないように、そうっと抱きかかえて動物病院へ向かった。

「あのう。このネコ助かりますか? ぼくの貯金箱3つ全部持って来ますから、なんとか治してください!」
「お金はいらないわよ、ぼうや」黒ネコを診ている間もたえず笑顔だった獣医さんが、ぼくに向かってほほ笑んだ。
「だってこのネコちゃん、どこもケガしてないから。びっくりして目を回してるだけ」
 今度はぼくがびっくりする番だった。

「良かったよ、お前がぶじで」
 動物病院を後にして、ぼくと黒ネコは空き地へと向かっていた。黒ネコは首輪をしてないからノラかもしれなかったけど、こんな場所で放して何かあるとまた大変だから。
「それはいいとして、サンタさんに初めてもらったクリスマスプレゼント、ダメにしちゃったよ」
 それまでぼくの腕の中でおとなしくしていた黒ネコの耳がぴくりと動いたかと思うと、身をよじってスルリと飛び下り、走り出した。
「おおい……ええと、ネコ!」
 ぼくは追いかける。

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あきゅろす。
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