五万打! 1 突然だが、俺には好きな奴っつーのが居る。 そいつ…宮井は美人で、華奢で、だからといって守ってやらなければならないようなか弱い感じではなく…寧ろ強かで芯の通った―――そんな奴。 いつも凛としていて、表情が動くことは滅多にない。常に薄く笑んでいる表情はまるで作りのいい人形のようだ。 だから俺は、何があったのかと思った。 「どうして会長がそれを持っているのですか!?」 そう、俺に詰めよる宮井の目が、あまりにも輝いていたから。 好きな奴が普段見ないような表情で迫ってくれば、誰だって焦る。当然俺も例に漏れず、見事に焦った結果、俺は後退した上、机に体をぶつけてしまった。 好きな相手にカッコ悪いところを見せてしまったと一瞬思ったが、宮井はそんなことには微塵も興味がないように、俺の手元をガン見している。 俺の手元の、小さなクマのストラップを。 「どうしてって…鞄に入り込んでて、お、俺の趣味ではないからな?」 いい年した高校生男子、しかもこの学園で抱かれたいランキングナンバーワンであるところの俺が、こんなファンシーなものを好き好んで持っているような乙女趣味だとは思われたくなくて言う。しかし宮井はそんなことはどうでもいいとハッキリ言い放ち、俺の手ごとそれを掴んだ。予想よりも暖かいその手に心臓が跳ねる。 「な、おま、何を…」 「好きでもないのにこれを持っているなんて、おかしいですよ!これっ…数量限定でファンの一部にしか販売されていなくて、ネットにすら出回っていない、幻のリリーストラップなんですよ!?」 …………は? 「可愛いっ…!僕ですら持ってないのに、なんで会長が持っているんですか…!」 愛しそうにそれに見入る宮井は、それに伴い俺の手を強く握ってくるため、俺は余計に頭が回らない。 これが宮井?いつもの宮井はこんなに感情を表に出すような奴ではない。というか台詞に感嘆符がついているのすらはじめて見た。目をキラキラと輝かせ、普段はクールビューティーな雰囲気の宮井だが、可愛くて仕方がない。なんだこいつは、襲われたいのか、そうなのか。 …じゃなくて。 落ち着け俺。宮井はどうやらこのクマが好きなようだ。だから俺は手を握られているわけだ。それゆえ俺はこんなにパニックになっているわけで、いやでもこんな都合のいい状況みすみす逃したくはないけど、いやしかし落ち着け俺、そう、落ち着くためには…。 「み、宮井、取り敢えず手、離せ…。これ、やるから」 「本当ですか!?」 がばっと顔を上げた宮井に、心臓が高鳴る。やばい。これはやばい。 何が可愛いって、お前が一番可愛いんだよ…! 「会長、ありがとうございます!!」 普段のデフォルト笑顔とは違う満面の笑みに、意識が飛びかけた。 宮井はしばらくストラップを眺めたりケータイで撮ったりとはしゃいでいたが、 「ただいまー」 会議に出てそれまで居なかった会計と書記が帰ってきた瞬間、我に返ったように席に座り、表情を戻して言った。 「おかえりなさい、遅かったですね。決算書の確認をさせていただいてよろしいですか?」 誰だコレ、というには、こちらの方がいつも通りだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |