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「…お久しぶりです、初美さん、総十郎さん」

化学準備室に行き、コーヒーと椅子を準備して緊張しながらもあいさつする。狭い部屋で向かい合ってるのはかなり心臓に悪い。

「久しぶりだな時雨くん」
「まさか時雨くんが真雪の先生になってるだなんて思わなかったわ」

小さく微笑む総十郎さんと、うふふと可愛らしく笑う初美さん。相変わらず整い過ぎてて見るのがつらくなってきそうな夫婦だ。そして総十郎さんの方は年と共に色気が増してる気がするけど、初美さん。全然変わってないんだけど。どういうことなんだ。

「大きくなったわねえ」
「ども…」
「真雪が迷惑かけてない?」
「いや迷惑なんてそんな…………なあ」

かけられているにはかけられているが、それ以上に結果としての功績が大きすぎてどうにも言い難いし、最終的にいい方向に持って行く力があり過ぎて迷惑って言っていいのかわからないため凍坂に適当に振ると、無表情で口の端だけ上げられた。それはどういう顔だ。

「でも時雨さんが雪ちゃんのお母さんとお父さんと知り合いなんてびっくりした。言ってくれればよかったのに」
「言うも何も、気付いてなかったっつの」
「雪ちゃん二人にそっくりじゃん」

晴生の助け舟が入ったということは凍坂の今のは困っていますの顔だったということだろうから、とりあえず適当に話を合わせる。というか晴生、自分の親にはダメで凍坂の親の前では素でいいのか。

「造形のいいとこ集めて来たのをそっくりとは言わないだろ」
「時雨さんそれめっちゃ褒め言葉ですよ」

いいとこ集めて来たっていうと、二人によくないところがあるみたいな語弊が生まれそうだからちょっと違う気がするが、間違いではないだろう。初美さんの柔らかさの部分を総十郎さんの凛々しさに変換したのが凍坂真雪みたいなもんだ。
改めて見ると、かなり似てるけど。
三人を並べて順々に見ていると、初美さんがにこにこ笑いながらこちらを見てくる。無駄にどきどきしながら様子を窺う。せっかくここに呼んでまで話の場を設けたのに、実際に向かい合うと何話していいかわからない。とりあえず落ち着くため晴生を見ると、察したかのようにへらっと笑った。こいつはこういう空気を読めるのか。

「時雨さんとお二人はどういう関係で会ったんですか?」
「ふふ。二人は知らないかもしれないけど、時雨くん昔はやんちゃだったのよ?」

得意げに言う初美さんだが、残念ながら二人とも知ってる。

「僕が中学高校くらいの一番荒れてる頃に、まあ喧嘩とか外でして、迷惑かけてたんだよ」
「ああ…荒れてた頃」
「時雨くんすごく強かったらしくって、どんな相手でもこてんぱんにしちゃうのに、警察に来ると普通におとなしくなるっていう変わった子だったの。ある意味有名人ね」
「その頃から権力には弱かったんだね…」
「晴生さっきからうるさい」

相槌が煩い。つか別に昔のアレは、峰藤の野郎にいらついての行動だったから大人に迷惑かけるもんでもないと思ってただけだし、それ以前に初美さん、この柔らかさでなんつーか、逆らえない感じだったんだよな。微笑みながらダメでしょなんて言われたら悪態すらつけないんだからある意味最強だ。

「その時雨くんが今や先生よ。我が子が成長したのを見るかのようね!」
「いやおばさんさすがに時雨さんくらいの子がいたらびっくりし過ぎて困るよ」
「つか凍坂くらいの子がいるってことが既に驚きですよ。お二人とも」
「私は年相応なつもりだが」

今まで黙ったままほほえましそう(無表情)に見ていた総十郎さんが急に話に入って来たかと思うと否定の声を上げた。自分の妻が童顔だっていうのはわかってるのかとか、自分は年相応なつもりなのかとか、そこが口を挟まなければならないポイントなのかとか、いろいろ言いたいことが浮かんだが、総じてなんだかおもしろくて、思わず噴き出すのを誤魔化した。まあ口元押さえて顔背けたらそれは誤魔化せてないってものだろうが。

「そんなに笑うことないだろう」

必死で抑えつつ顔を上げると、総十郎さんは特に怒った風でもなく言いながら、
ぽんと僕の頭に手を乗せた。

「す……みません」

照れくさいやら本気で照れるやらでもう生徒の前とか晴生と凍坂の前とか忘れて本気で赤くなってしまったことが、この日一番の僕の失態だったろうと、そう思ったのは二人の帰ったしばらく後だった。


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