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俺が天崎晴生に会ったのは、二年のはじめ…次期生徒会役員として生徒会補佐になった頃だった。

「次期生徒会副会長候補、天崎晴生です」

こいつの噂は聞いていた。
なんでも一般の特待生で、成績は必ず二番か三番。冷静沈着であまり表情豊かではないわりに誰にでも平等に親切だとか。
そんな人間居るかよ、と思った。
目の前にいる眼鏡は確かに有能そうではあるが、親切だとはとても思えない。挨拶するのに笑顔の一つも見せない、つまらない奴だというのが第一印象だ。

「天崎」

他にもいろいろ噂がある奴なのだが、そのうちで気になるものが一つあったため、それを確かめようと声をかける。緊張した様子もなく「はい」なんて答えてくるところも、同級生なのに律儀に敬語で話すところも何となく癪に障る。いや、本当になんとなく、なのだが。
…しかし近くで見ると思った以上に綺麗な顔をしてるな。髪を上げているため大人びた印象を持ちがちだが、よく見ると意外に幼い…というか、年相応だ。

「あの、何か御用ですか?」

首を傾げる天崎に我に返り、居心地悪そうにしている姿に頭を掻く。突然話しかけといてじろじろ見るのは失礼だった。
噂の真意を聞きたいが突然聞くのも失礼か。

「さっき会長たちが、次期生徒会同士話しとけっつってたろ?」

我ながら苦しい言い訳だとは思うが、会長たちがそんなことを言いながら仕事を任せて出て行ったのは事実だ。補佐に全部投げるってどういう神経してんだとは思ったが、仕事に慣れるためには自分たちがやった方がいいのも事実だった。

「…話し合うには、人数が足りない気がしますが」

部屋を見渡す天崎につられて見ると、生徒会室には既に俺たちしか居なくなっていた。…他の補佐たちは帰ったらしい。まぁ仕事とはいっても、そう大変なものはさすがに任されてないしな。寧ろ残っていた俺たちが変わってるのか。

「いや、まぁ…」

気まずく思いつつも天崎の方に目を合わせると、小さな苦笑が返ってくる。
それが存外似合っていて、思わずどきっとした。

「どうかしましたか?」

俺が動揺したのに気付いたのか、天崎は再び首を傾げる。なんだかペースを崩されっぱなしだ…。
誤魔化すように話を逸らすために、本題に入る。

「お前、会長の話が来てたのに断ったって本当か?」

結局唐突になってしまったのは仕方ないだろう。
天崎は俺の質問にどこか遠くを見つめるような目をしながら何故か苦笑の色を濃くした。

「天崎?」
「あ、いえ、まぁ…自分は会長の器ではありませんので」
「学年トップクラスの成績なのにかよ?」
「成績は関係ありませんよ。それに、トップだって会長の話を面倒臭いの一言で蹴りましたし」

トップ、といえばあいつ…中等部からの有名人で生徒会会計補佐の、峰藤か。

「よく知ってるな」
「同じクラスですので。彼が会長になると噂されていたので少し驚きましたが」
「ほぉ。俺じゃ不足だと?」
「滅相もないです」

少しからかってやるつもりで言ったのだが、天崎は何事もなかったかのように答えた。なんつーか、俺なんか相手にしていないみたいでムカつく。

「それに、彼や自分よりあなたの方が会長らしいですし」
「………」

なんなんだこいつ。
さっきの苛立ちで何か言ってやろうとしたのに、その気は一気に削がれた。なんか掴めねぇ、こいつ…。
やり場のない思いをどうしたものかと考えていると、天崎が立ち上がった。

「終わったなら帰りましょうか。帰りながらでも話はできますし」

暗に一緒に帰ることを言われるようで、俺はまたなんとも言えない気になる。誰かと一緒に下校などしたことなかった俺は、友達になったような気分で、しかし変なプライドの所為で素直に嬉しいとも思えず、とにかく複雑な気持ちになる。つーかこいつ、もしかして俺を待ってここに居たのか…?仕事なんてさっきからしたように思えないのだが…。

どうなのかと考えながらも俺は頷こうとして、……ノックの音に遮られた。


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あきゅろす。
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