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「すみませんでした、妹尾先生」

申し訳なさそうに謝る芦屋先生に、本気で首を横に振る。芦屋先生が謝る必要などない。失礼だったのはあの男だし、…図星なのは、俺だ。

「いいんです。あの人から見たら俺なんか、普通ですから」

ちょっとカッコ悪いと思いながらも、そう返すしかない。
半分は悔しいが、半分は本心だ。
なんでもできる生徒会長だったあの人に比べれば、俺は芦屋先生の記憶にも残らない、普通の奴だ。大人になった今だって、この人に釣り合うような人間じゃない。

「妹尾先生は、優しいじゃないですか」

芦屋先生の横を歩きながら、笑って見せる。

「そんなことありません。このくらい、誰だって手伝いますよ」

特に芦屋先生の頼み事だ。断る奴なんて早々居ない。

「ありますって。今日も…あの時も、文句ひとつ言わずに手伝ってくれたでしょう?
「え…?」
「妹尾先生は覚えてないかもしれないですけど、僕ら高校のとき会ってるんですよ。僕が持ちきれないくらいの荷物持ってると、妹尾先生が臆せず手伝ってくれて」

それは、俺が芦屋先生に惚れたあの時―――。

「あの時の妹尾先生は、確か一年で…」
「おっ、覚えてます!芦屋先生は、三年の風紀委員長でした!」

食い気味に言う俺に、芦屋先生は一瞬目を見開き、その表情を笑顔に変えた。くすくすと笑う芦屋先生が可愛いのもあるが、羞恥で顔が赤くなるのを感じた。これじゃまるで、憧れの先輩と話す後輩ではないか。実際はまんまそのままなのだが。

「覚えててくれてありがとうございます」
「…芦屋先生こそ、こんな普通な俺を覚えててくださって、ありがとうございます」
「意外と根に持つタイプですか?」

再び笑われて言葉に詰まる。そんな俺を見て、芦屋先生は何故か携帯電話を取り出した。

「大丈夫ですよ。今、晴生が仕返ししてくれてますから」
「え?」

言っている意味がわからずに首を傾げていると、携帯電話の画面を見せられる。そこにはFrom凍坂真雪というメールが開かれていて。

「晴生くんが『霧緒さんの好感度、どんどん下がっていくよね。ごめん嵐ちゃん、俺、霧緒さん割と嫌い』って言ったら秋嵐くんが怒って、霧緒さん凹みましたよ(笑)ざまぁですねww」

なんて、おおよそ教師と生徒がするようなメールではないメールが映し出されていた。
…自分で思っておいてナンだが、芦屋先生は天崎だけでなく凍坂とも仲がいいらしいことに先に目が行く自分はどうなんだろう。

「秋嵐も結構、晴生のこと大好きですからね。頼んだ甲斐がありましたよ。ま、晴生は素かもしれませんけど」

嫉妬と嬉しさが同時にこみ上げる。
芦屋先生が俺のために仕返しを頼んでくれたことの嬉しさと、それを頼んだ天崎との仲の良さへの嫉妬。しかし、

「これで、峰藤の野郎に会わせてしまったことへの始末はつけたっつーことで…あと、今日とあの時の礼をしないといけないですね」

そんな言葉で嫉妬の方は吹き飛んだ。

職員寮に到着すると、芦屋先生は自分の部屋に向かいながら俺の方に顔を向けた。

「じゃあ、二回分の礼何がいいか考えといてください。つっても飯連れてくくらいしかできませんけど」

そして別れ際、芦屋先生は俺の顔をまっすぐ見ると、あの時と同じ……あの時俺が惚れた笑顔で言ってくれたのだった。

「それじゃ妹尾先生、ありがとうございました」


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あきゅろす。
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