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2

夜。街。二人きり。
俺は芦屋先生と二人並んで街を歩いていた。

荷物持ちとして。

「なんかすみません、僕一人じゃ持てなくて。いつもは天崎あたりを連れてくんですけど、今日は捕まらなくて」
「いえ……………お役にたてて、光栄です」

わかってた。
この人は俺のことなんか、ただの同僚としか思っていないんだから。でも数いる同僚の中から俺のことを選んでくれたんだから、他よりは親しいってことでいいんだよな…?
教師陣の中でも、生徒からも芦屋先生は大人気だ。本人は全く気付いていないが、狙っている奴らはたくさんいる。ライバルに少しでも差をつけられるのは悪いことではない。

「ところで、なんなんですかこれ?」

俺は
先ほどから気になっていたことを訊いた。
いくつもの箱は固く閉じられていて、中身がわからない。化学準備室にあった時点で封をされていたので、どこかからまとめて仕入れたものを移動させる最中なのだとはわかるが、量の所為でさっきからすれ違う人たちが振り返っている。芦屋先生が綺麗だからもあるだろうが。

「ちょっとした頼まれごとですよ」

答えた芦屋先生は、何故か憎々しそうだった。

「でも、こんなにあるなら車で来ればよかったですね」
「え、妹尾先生、車持ってるんですか?」

触れるのが躊躇われたため変えた話題に反応して、芦屋先生は俺の方を振り向いた。少し驚いているようである。

「ええ、まぁ。休みの日なんかに出かけたり」

うちの学校は教師寮も用意されているため、俺や芦屋先生はそこで暮らしている。車に乗ることなどため車を校内に置いている教師は滅多にいないのだが…いわゆる趣味のひとつみたいなもんだ。

「へぇ…じゃああの車、妹尾先生のだったんですね」
「え…てことは芦屋先生も持ってらっしゃるんですか?」
「まぁ、足に使われるくらいですけどね」

わりと好きなんです、と笑う芦屋先生にくらっときた。なんだこの満面の笑みは。可愛い。抱きしめたいくらいに可愛い。

「やー、でも、そうですよね。いつも歩いて来るんで忘れてました。こういうときに使えばいいんですよね」
「え、あ、はい。ですね」

芦屋先生が可愛すぎてトリップしそうになっていた自分を引き戻す。
ちゃんと話を聞かなければ、と思って、疑問を見つけた。

「芦屋先生は普段何に使ってらっしゃるんですか?」

さっき言っていた『足』ってのもよくわからないため疑問符を掲げていると、芦屋先生は苦笑のような、呆れたような微妙な表情をして肩を竦める。

「買い出しの荷物が重いからついて来て、だの、雨が降ったから迎えに来て、だの泣きついて来る奴が居るんですよ」
「はあ…」
「面倒臭いって突っ撥ねると諦めるんですけど、まぁ見てて飽きない奴なんで、たまについて行ったりしてやってるんです」

いたずらっ子のように笑う芦屋先生はとても可愛らしかったが、少し妬ける気もする。

なんだかんだ言って、芦屋先生、天崎に甘いんだよな。


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