*clap serial
嫉妬
秋吉家から学校に通うことになって、泰道にはひとつだけいいことがあった。
「あ、大島くんおはよう」
思い人である女子と、通学路が一緒になったことだ。
「あ、や、柳井さん。おはよう」
どうやら方向が同じらしく、これだけは本当にラッキーだと思う。
「そういえば昨日、吉岡くんたち先生に怒られてたけど、どうしたの、あれ?」
「あー、なんかプロレスごっこしてて危ないって叱られたらしい。バカだよね、中三にもなって」
「そうかな?男の子はそれくらい元気な方がおいs…いいと思うよ」
そんな日常的な会話をしながら、泰道は幸せをかみしめていた。
(やっぱり柳井さんは大人っぽくていいな…)
可愛らしく笑う大人びた想い人に、次はなんの話をしようかと迷っていると、ふと彼女の視線が一点で止まっているのに気付く。
「柳井さん?」
名前を呼ぶが彼女は気付かず、意識を完全に視線の先――前方から歩いて来る男に向かっていた。そして。
「琴見くーん!」
聞きなれた名と、珍しく目を輝かせ手を振る彼女に、泰道は目を瞠り視線の先を見た。
「あ?日仲?」
そこに居たのはやはり見慣れた、男子高校生。
「どうしたの琴見くん?こんな時間、学校間に合わなくなるんじゃない?」
「いや、弁当忘れてさ。自分の分だけならいいんだけど、今お前の兄貴らの分も作ってるから」
「ら!?ら、ってことは、梛月くんの分も作ってるの!?」
突然声を荒げた彼女に驚く。いつもは物静かでありながら無口ではないが、落ち着いた性格の彼女がここまでハイテンションになっていることと、その際出てきた名前に泰道は気付かれないように顔を顰めた。
「まあ、作ってるけど」
「ちょ、なんで早く教えてくれないのよお兄ちゃん!帰ったら問いたださなくちゃ!朝からありがとう琴見くん!!」
「なんか知らねーけど、喜んでもらえてなによりだ」
親しそうに話す二人を見ながら、泰道は余計に顔を歪める。
琴見と―柳井朝近の妹である―日仲の仲が良いことも、琴見が泰道にまるで気づいていないかのように振舞うことも、普段大人っぽい想い人がとても子供らしく可愛く微笑んでいることも。
泰道にはすべてが気に入らなかった。
(それがどちらに対しての嫉妬だったのか、泰道はわかっていなかった)
(とかだったらおいしいのに、と日仲なら思うだろうが)
(生憎日仲は二人の関係を知らなかった)
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