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*clap serial


県下有数の不良校。
その二年某クラスの中、彼――秋吉琴見は、爆睡していた。
それはもう、気持ちよさそうに。

まるで自宅に居るかのように安眠している琴見の様子に隣の席の柳井朝近は苦笑した。
この怒号の飛び交う中、よくもこうスヤスヤと安眠できるものだ、と。
そして教室内でバカみたいに喧嘩している不良たちに思う。
お前ら全員、こいつ起こしたら地獄を見るぞ、と。

琴見の寝起きの悪さは母親も諦めるほどのものだ。途中で起こされれば手が付けられないレベルで暴れるためおとなしく勝手に起きるのを待つしかない。

(あ、でも…)

そういえば、一人だけ、琴見を起こすことのできる人物が居たか。
いつもは「気持ちよさそうに寝てるのに、可哀想じゃないですか」と笑っているあいつ、後輩の三次梛月。

(何故かあいつが起こすと素直に起きるんだよな…)

本当に、不思議で仕方がない。

「ただの性格悪い後輩なのにな…」

「誰が性格悪い後輩ですか」

「うわぁあぁ!?」

朝近は椅子から転がり落ちると、声をかけた人物、梛月に向かって指を差しながら口をぱくぱくと動かす。まさか脳内に居た人物が突然具現化するなんて思ってもみなかったからだ。
とはいえ実際は朝近が梛月についての考え事をしていて、その場にいた本物の梛月に気付いていなかっただけだが。
まだうるさく鳴っている心臓に息を整えていると、呆れたような声が飛んでくる。

「魚ですかあんたは。エサでもほしいんですか?」

「違ぇよ!なんでここに居るんだ、授業中だぞ!?」

「授業時間は三分前に終わってますよ。うるさくて聞こえなかったのかもしれませんが、今はもう昼休みです」

言われて時計をみると、確かに昼休みになっていた。
全く気付かなかったと思いながら梛月に視線を戻すと、特に嫌味はないようで、ただ肩を竦めて人差し指を天井に向けた。

「屋上行きましょう」

周りの喧騒を気にもせずそう言う後輩に、隣で寝ている琴見を思い出す。
朝近が琴見の方に視線をやれば、梛月も気付いたようで寝ている琴見に近付いて行った。
否、気付いてはいたのだろう。でなければこの自分をバカにしくさった後輩が琴見より先に自分に声をかけるわけがない。

「琴見先輩、ごはんですよ。起きましょう」

「んぅ…?」

「琴見先輩」

「ん…なつ、き?」

「おはようございます」

耳元で囁くようによぶと琴見は小さく唸って目を開いた。

やはり不思議だ。何も特別なことはしていないのに。

「んっぁー…もう昼飯か…」

大きく伸びをする琴見は立ち上がると、自分手製の弁当を持ち、やはり喧騒などには目もくれずに歩いて教室を出て行ってしまった。
それについて行きながら、朝近は小さくため息をこぼす。

確かに今の教室に居た誰よりも琴見が強いのは知っている。
梛月にも、あのクラスメイトたちでは敵わないだろう。
自分も腕には自信があるが、

「お前らって本当、神経太いよな…」

「は?」

振り返って首を傾げる二人を見れば、どこにでも居そうなチャラ男と優男なのだが。

「お前らは大物だよな、っつったんだよ」





(「朝近が小物なんじゃねーの?」)
(「朝近先輩が小物なんじゃないですか?」)
(「てめぇらぁぁ!!」)


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あきゅろす。
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