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*clap serial
貧乏くじ

柳井朝近は考えた。

イジメなんか自分には関係ないし、
カツアゲだって自分には関係ない。

なぜなら自分はそれをする側でも、される側でもないからだ。

ならば自分は何か?考えるまでもなく、目撃者だ。
カツアゲされている中学生と自分はまず、何の関係もない。助ける義理もない。
でも。

あれは俺の卒業した中学の制服だし。
あっちは俺の通ってる高校の制服だし。

つまりは自分の高校の奴らが自分の母校の奴をカツアゲしてるわけで。

(よし、助けよう)

このあたりが貧乏くじと呼ばれる由縁だと朝近は気付かない。

「お前ら、楽しそーなことしてんじゃねーか」
「あ?……柳井朝近」
「お?」

まさか自分のことを知られているとは思わなかった朝近は少し驚いた。琴見なんかよりは有名であるが、突然名前を呼ばれるほどの有名人ではないと思っていたのだが、フルネームで呼ばれるということは知られているということだ。どこかで会ったか、と朝近は考えるが、覚えがなかった。

実は彼は朝近や琴見と同じクラスと言うことで知っているのだが。

「柳井?…ああ、あのユートーセー共とつるんでるビビり」
「…あ?」

もう一人の(こちらは違うクラスの)男にビビりと言われた、が、朝近はすぐには反応できなかった。それなりに不良ではあるし、ビビりなどとは心外であるが、即座に反応できなかったのはその前の言葉に違和感を感じざるを得なかったからだろう。
だって今、こいつらはなんと言った。

「ユートーセー、…共?」

梛月だけならわかる。あれは、中身はえげつないし腕もたつとはいえ、勉強もできるし、見た目だけなら優等生に見えなくもない。しかし、琴見は違う。ピンなど止めてなくとも、ピアスなどしていなくとも、少なくとも優等生には見えないだろう。

「がり勉とマザコンだろ?お前のお友達。それにてめぇは喧嘩もせずに逃げる臆病者。弱い者同士つるんでお似合いだぜ」
「…いや、マザコンは合ってる分反論しにくいが……」

何故、彼らが琴見のことを知っているのだろうか。
一瞬そんな考えが浮かんだが、突き出された拳にその考えは中断された。

「弱いくせに一丁前にヒーロー気取るつもりかよ」

へらへらと笑いながら殴りかかってきたそれを軽く避け、朝近は考えるのをやめて小さくため息を吐く。

「一応言い返しておくと、こんなとこで中学生相手にカツアゲしてるような情けない高校生共よりはずっと強いぜ。俺ら、三人とも」




(ああ、なんかトンチンカンなこと言われて気ぃ削がれたわー)
(テキトーに片しとこう)
(つーか俺なんで喧嘩なんかしようと思ったんだっけ)
(あ)
(妹にパシられた鬱憤晴らそうと思ってたんだった)


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