*clap serial
あの時から
思えば自分は物事にあまり関心を持たない性質だった。
勉強はそうしなくとも、ある程度のことはすぐにできるようになった。運動も最初から他人よりもできるし、容姿も一般には良いと言われる方だった。だから、一番になんかにこだわらなければ頑張らなくてもだいたいのことで不自由しなかった。その分、満足もできなかったのだが。
しかしそんな日々は、確か中学二年の頃に、変わった。
中学二年の頃、三次梛月はまだ、ただの優等生だった。
それ故にだったのかもしれない。
彼が、絡まれたのは。
「勉強しかできないお坊ちゃんがよぉ」
なんて、そんな頭の悪そうな罵声。頭にはきたが、それで手を出すほど馬鹿ではない。だからといって喧嘩のできないような優男でもない。一発殴られてやれば正当防衛にでもなるかな、と思ったときだった。
「これはアレか、喧嘩に大義名分ができるチャンスっつーわけか」
そんな、楽しさにイラつきが混ざったような声が聞こえたのは。
全員が声の方を振り返ると、そこに居たのは苛立ちを隠すような笑顔を浮かべた(当時まだ黒髪、ピアスなし)の背の低い上級生と、その後ろで呆れたような表情の(こちらもまだ当時黒髪の)背の高い上級生の二人組。
「やめとけよ、コーコー入れなくなるぞ」
「高校っつーのは選ばなければ誰でも入れるんだよ。母さんが言ってた」
「そのお母さんと喧嘩して、喧嘩したくなるくらいイラついてんのは誰だよ」
「母親殴るわけにはいかないんだから、こいつら殴るしかねーだろ」
そんな、おおよそ不良とは思えない会話をする二人に、梛月は思わず笑いそうになってしまった。普段から笑顔は崩さないようにしているが、素で声を上げて笑いたくなったのはいつぶりだろう。
「…それに、これはそんな八つ当たりみたいな喧嘩じゃねーんだから」
小さい方の上級生は、そんなことを言ってにやりと笑い、梛月を見た。
「お前、先生ご期待の二年なんだろ?俺は今とても喧嘩がしたいので助けを求めてくださいお願いします」
その言葉に思わず吹き出して、了承を返したのはその直後で。
三次梛月が秋吉琴見と柳井朝近とつるむようになったのは、この日この時からだった。
(「三次梛月です、先輩」)
(「おう、秋吉琴見だ。後輩」)
(「琴見…、三次だっつってんだろ」)
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