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*短編
3

幽霊と会ってから、五日が経った。

相変わらず学園は一人の転校生によってめちゃくちゃにかき回されているし、風紀室にはどんどん仕事が増していくが、二日前幽霊の同情を買ってから、俺は少しだけの安寧を手に入れていた。幽霊は、あの転校生どころか生徒会役員からも俺を遠ざけてくれていた。つまりそれは理不尽に役員どもから文句を言われることも、わけのわからん転校生に謂われもない誤解を押し付けられることもないということで、俺の精神はどうにか保たれ回復してきていた。元はもっとまともな生活が送れていたはずなのだが、人間底を見せられると少し浮上しただけでも光が見えるというものだ。

「んでさー、その猫が俺のこと見て超びびっちゃって!」

相変わらず果てしなくどうでもいい話と喧しさは変わらないが。
本当になんのつもりなのか、俺に憑いた幽霊は何をするでもなく、ただただぺちゃくちゃと世間話をしつつ生徒会・転校生とのエンカウント阻止に励んでいる。なにもなくとも取り憑くだけで生気でも奪われてるのかとも思ったが、自分の身体に仕事が増えた故以上の不調はないし、顔色も変わっていない。それとなく副委員長に聞いてみたが「いつも通りのイケメン面ですよ」とかなんとか、小バカにしたような返答をもらった。
つまりは、この幽霊に害はない、ということなのだろうか。

「動物って霊感あるっつーけど、本当だったんだなー」

撫でたかったのに、とそいつは肩を落とす。これでもし害があると言われたら、俺は少し信じられそうもない。

「ちょっとまこちゃん聞いてんの?いつもいつも、絶対俺の話聞いてないよね!」
「お前の話が下らなすぎて相槌打つのも面倒なだけだ」
「まこちゃんってば辛辣!そんなんじゃ彼女とかできたとき困っちゃ…っ」

ちゃ、なんて変なところで切れた言葉と突然足を止めた(というには浮いている以上語弊があるかもしれないが)幽霊に、つられて足を止めた俺は少し身構えた。もしかして奴らか。そう思って視線だけをそいつに向ける。が。

「…?おい」

いつもならば生徒会役員か転校生を見つければ即座に笑顔で撤退指示を出すそいつは、なぜか顔を俯けて固まっていた。

「どうかしたのか?」

怪訝に思い、校舎の影からそちらを見ようとすると、ハッとしたように名を呼ばれる。

「ご、ごめんなんでもない!こっちはあんまよろしくないから向こうから行こっか!」

よろしくないって何がだ。なぜこっちを見ない。
謎の行動をする幽霊に、しかし奴らに会っては困るのでおとなしくついていこうとしたときだった。

『ぁんっ…』

先程行こうとしていた道の方から、なんというか、そんな感じの声が聞こえた。
…まさか。
そう思い、声の方ではなく幽霊を見れば、その顔は真っ赤に染まっていて。

「お前…」
「…っ、こ、こんなとこで致すなっつーんだよな!あ、大丈夫合意っぽかったから!気まずいし早く行こうぜ!」
「…ふっ」

思わず笑ってしまった。
だって、このどう考えても悪い方向に開放的な学園に幽霊として居て、ここまで照れるか。普通に風紀委員として見回りしてても月数件は見かけて摘発するぞ。校内の不純同性交遊として。
それを、真っ赤になって笑顔作って誤魔化すって…。

「ぷ、くく…」
「っっ…わ、笑うなよ…」
「いや、悪い…ふ」
「っ笑うなってば!誠のバカ!変態!」

普段そうツボが浅くない分笑いやめずにいると顔を赤くして怒ったようにそっぽを向かれる。喧しいだけだと思っていたが、案外初で可愛らしいところもある。

「くそっ…元はといえばあいつらがあんなとこでしてるから…。あそこは風紀室から職員室の近道だっつーのに…」

ぶつぶつと言いながらこちらに背を向けて進むそいつに、笑うのを終えてついていく。きっと別の道から行くつもりなのだろう。俺も、今は摘発なんかしている場合ではないので放っておくとする。次ヤってたらかっぱらうけどな。

「…つーか、まこちゃんは平気なのかよ、あーゆーの」
「風紀委員だからな。慣れた」

呼び方が戻ったことを気にしながらも返せば、じとりとした視線が返ってくる。せっかくだから、そのまま普通に名字で呼んでくれた方がありがたいのだが。会った直後から「まこと?なにそれ名字なの?じゃあまこちゃんて呼ぶわ!」と言われたときにはかなりイラッとさせられたからな。お前だってそれ名字なの?みたいな名字のくせに。

「風紀委員だって、そーゆーの苦手な奴も居るかもしんねーじゃん…」

拗ねたように言われるが、普通居ないと思う。そんなもんじゃやっていけないだろ。や、まぁ普通に考えたら慣れる方がおかしいはずだから、正しいのはこいつなのかもしれないが。
でもここの生徒なら…と、そこまで考えたところで思い立つ。そして目を向ければそろそろ機嫌も直ってきたそいつは小首を傾げた。その姿は黒の学ランに身を包まれており、ここのバカに派手なブレザーの制服とは異なる。

「お前そういえば、ここの生徒なのか?」

頭に浮かんだ疑問をすぐに問うと、そいつは不思議そうな顔で肯定を示す。

「え?そりゃそうだよ。つーか、よその学校の幽霊はここで浮遊霊なんかやってないっしょ」

お前浮遊霊だったのか、なんてよくわからないツッコミが一瞬浮かんだが、それよりも気になることがあるため、指先をそいつに向ける。それから首を傾げるそいつの前で自分のものと交互に指を向ける。

「制服。違うだろ」
「あー。そりゃあれだ、俺の一個下からまこちゃんが今着てるそれに変わったから」

すぐに疑問を解消できる答えをくれたことに、そうなのかと相槌を打つ。
何を思って黒の学ランからこんな派手なブレザーにしたのかも気になったが、そこはさすがの幽霊もわからないだろう。…つか、制服学ランだったのって何年前なんだろうか。
というか。

「つまりはお前は、実は俺より結構な年上ってことになるよな…」
「まーね。敬ってくれてもいいんだぜ?」
「断る」
「即答かよ!」

楽しそうに笑う幽霊は、ここで本当に敬ったりしたらきっと嫌がるだろう。そんな疲れる流れのために労力を使うつもりはない。適当に会話をしながら職員室へ向かう。こいつとの行動も、最近では慣れてきたものだと思った。




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