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*短編
1

「おい会計」
「なぁに、かいちょー」
「どこに行く気だ」
「どこでもいーでしょぉ?俺の仕事は終わったんだしぃ」
「チッまたセフレのとこかよ」
「かいちょーにはかんけーないよ」


この金持ち学園の片隅に図書室があることは、意外と知られていない。何故かというと校舎のすぐ近くに大きな図書館が設置されているから。あっちの方が圧倒的にものが揃っているため知っていたとしてもこっちに来る人はいない。こっちの本はほとんど去年退任した司書の先生の趣味だしね。

というわけで、ここは俺の城だった。

「あー…紙の匂い落ち着くー」

外では横分けで留めているピンを外し、前髪を上げる。茶縁の眼鏡をかけ、鬱陶しく垂れ下がったアクセを外すと、この学園唯一の図書委員の完成だ。ただ自分が読みやすい格好なんだけどね。

今日はやりたいことがあったから、急いで生徒会の仕事を終わらせたんだよなー。まったく、なんで俺が生徒会会計なんてやらないとなんないんだ。俺は放課後は三年間ここで過ごすって決めてたのに、この学園の生徒会役員は立候補無しの投票制っていうじゃないか。面倒を避けるためにチャラチャラした奴を演じてたっていうのに、その所為で選ばれるなんて、なんという皮肉。友人の「美形なチャラ男は会計」説を信じていればよかった。だって自分が美形とか思わないし。
生徒会なんて仕事いっぱいあって時間取られるし、会長はムカつくし、最悪だ。なーにが「またセフレのとこかよ」だ。舌打ちしたいのはこっちだっつーの。

「………」

俺のバカ。せっかく聖地に居るのになんであんな会長のこと考えなきゃなんないの。忘れよう。

気持ちを切り替えて自分のリュックから筆箱と原稿用紙を取り出し、立ち上がる。そして図書室の一番奥の童話の棚から一冊の本を取り出してカウンターに戻った。
元司書の先生とはすごく趣味が合った。俺も先生も童話や絵本が好き。先生は自作絵本も何冊か出版していて、俺は先生が居るからわざわざこんな男子校を受験したのだ。先生の作品は勿論全部サイン入りで持ってるよ。
でもまぁ、俺が一番好きなのは童話なんだけど。
そして俺の趣味は、童話の「その後」を書くこと。物語は終わっても、登場人物には本当は「その後」があるはずなのだ。だから俺はそれを妄想して書き連ねる。今取り出した原稿用紙もそのためだ。これを早く書きたかったから頑張ったんだよねぇ。パソコンを使えば早いのに手書きなのは俺のこだわり。字を書くのは好きなんだよね。できれば生徒会でも書記の方がよかった。そのときばかりは文系なのに無駄にいい自分の数学と情報の成績を呪った。

シャーペンを持つと楽しい妄想が膨らむ。その後白雪姫を貶めた魔女の姿を見たものはいない。という最後の文に続けて俺はペンを走らせる。

『何故なら魔女は王子の差し向けた追ってから逃れる途中、恋に落ちてしまったからなのです。相手は身分も何もない、狩人の男でした。』

俺はハッピーな話もアンハッピーな話も書くが、今回は魔女が報われる話。嫌われものだって報われる。

嫌われもの、か。

そういえば最近、会長が他の生徒会役員から嫌われてるんだよね。なんでも先日来た転校生に見向きもしないのにまとわりつかれてるのが、副会長たちは気に入らないらしい。会長はすっごい嫌がってたのに、さすがに少し同情した。とはいえ俺には関係のないことだ。なんだか知らないけどあの転校生、みんな友達とか言っておいて俺には見向きもしないし。好都合だけど。友人の話によれば転校生に落ちた役員は仕事放棄するらしいのだが、そんなことはない。むしろいいところを見せようとみんな必死に頑張っている。だから俺は趣味に没頭できるわけだけど。

「んー……」

なんか、ペンが思うように進まない。
狩人は魔女のことを知らなくて親切にして…って、なんていうか、違う気がする。どうしようかなぁ…。


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あきゅろす。
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