*vivid vermilion
2
昼休み、花ちゃんと一緒に食堂に行って、俺たちは「何かしら」を理解した。
「正義、これやるよ」
「やるじゃねーよ!柑太が嫌いなだけだろ!」
「え、なんでばれたんだ?」
「普通にわかるだろ!」
いやなんかもう、わかりやすくわけのわからない状況が広がっていた。
その席に座っているのは王道くんと生徒会役員(会長サマ含む)、上坂くん、そして…なんというかもろバレな変装をしている、柑太くんだった。橘原の柑太くんね。
生徒会役員が居るというのに、頭がいろいろ考えて足が動かない。
なんで柑太くん?
なんで王道くんと?
ていうかその態度なに?
「…花ちゃん」
「俺に聞くな」
だよね。
同じように呆然としている花ちゃんに苦笑し、俺は正しく聞くべき相手に電話しようとケータイを取り出す。あ、でもその前に食堂は出た方がいいか。
「あ、嘉山!」
と、思ってたら声かけられました。あははー、ほんとタイミング悪い。
嫌々ながらも振り返ると手を振る王道くんと、睨む役員、謎の表情を浮かべている会長サマと上坂くん。…行かなきゃダメかな、これ。
「無視するなら連れてくぜ、大将」
横で花ちゃんがこっそり言ってくれる。けど、まぁ。
「惚れそうなくらいイケメンな台詞だったけど、柑太くんが待ってるみたいだし、行くよ」
他から視線を移せば、柑太くんは何やらたくらんでる風な表情をしている。多分、というかほぼ自分の考えではないだろうに、すっげー自信満々な顔するな、あの子。
ため息を隠して花ちゃんを引き連れそちらに向かうと、元気よく王道くんが挨拶をくれた。それに軽く返して、説明を求めるため柑太くんに視線をやり、王道くんに戻す。
「ああ、こいつ転校生!」
「橘原柑太っす」
俺の視線の意味に気付いてくれたらしく、説明してくれる王道くんに続いて、声をあげたのは柑太くんである。ただししゃべり方がキモい。なんというか、変装からわかる通り、多分爽やかスポーツマンキャラなんだろうなぁ。そのあたりは姉さまの趣味かもしれない。でも姉さま、ごめんこれは似合うとは思えないわ。
「嘉山。こっちが花巻」
一応柑太くんもこちらでの事情は知っているので変装キャラ通りに話すと、一瞬だけ微妙な表情をされた。間違いなく卜部さんの計らいだとわかっていうけど、潜入させるの、本当に柑太くんで大丈夫だったの?
「あれ、そいえば嘉山、巽は?」
軽く心配になっていると、王道くんがまた面倒くさいことを聞いてきた。
「少し喧嘩したから、距離を置いてるんだ」
面倒だけど答えるしかないから答える。でもこういう言い方すると、
「なっ…喧嘩はダメなんだぞ!俺が仲直りさせてやるよ!」
こーいうこと言ってくるんだよねぇ。
「いい、これは早間と俺の問題だから」
ピシャリと言ってやれば、なにか言いたそうにしながらも王道くんは黙ってくれた。意外だな、もうちょっと突っ込んでくるかと思ったんだけど。
ま、それならその方が助かるからいっか。
「それで?用がないなら昼食に行きたいんだが」
あくまで呼ばれたから来た、という体で離れるように言う。多分柑太くんのこの顔からして役員の前で自己紹介をするところまでが卜部さんの指示だったのだろう。ならばこんな注目浴びるわ役員に睨まれるわ会長サマに近いわの最悪な位置にはいたくない。
用といえる用はないらしい王道くんは、「うーん」とか「えーと」とか話題を探しているようだが、それに付き合ってやる理由もないためその場から去ろうと花ちゃんに振り返り。
「嘉山」
「………はい」
会長サマに呼び止められた。先程までこそこそ話していた周りの声が大きなブーイングに変わる。ついでに役員共もなんでこんな奴を呼び止めるんだーみたいな文句を言っている。なんで呼び止めるって、こっちの台詞だっつの爆破するぞ☆と思いつつ呼び止めた会長サマに向くと、会長サマはなぜか上坂くんを一瞥してから俺に向いた。
え、なに?もしかして、俺たち付き合うことになったからとかそういう報告ですかそうですねそれ以外は認めない!
「嘉山、何か知ってるか?」
淡い期待を抱きながら花ちゃんにこっそりつねられていると、いきなりそんなことを聞かれた。何かって言われてもなんのことかまったくわからないんですが!お前が上坂くんを好きだと言うことは知っているがな!
「部屋のことだ」
「部屋?」
続けられたフォローに首を傾げる部屋って何の部屋?
端的すぎる言葉に、言っている意味がわからなくて首を傾げていると、会長サマは「やっぱり知らないか」と言った。バカにしてる風ではないけど軽くイラッときて、どういうことか聞くと、答えたのは上坂くんだった。
「嘉山先輩、俺と同室になったんです…」
「…は?」
声を出すのに時間がかかったのは頭のなかで言葉を噛み砕くのに時間がかかったからだ。その結果噛み砕くまでもなくそのままの意味だとわかったが。部屋って寮の部屋か。
ていうか…。
「なんで」
上坂くんなの?
部屋を変えるという話は知っている。卜部さんの企みだから。でも、俺はてっきり花ちゃんか柑太くんと同室になるものだと思っていたのだけど。
「それは知らねーよ。そいつが来たのに応じていくつかの部屋が変えられてんだ」
「…はぁ」
柑太くんを顎で指す会長サマに気の抜けた返事を返す。つまり、どゆこと?
「突然転校してきて正義と同室など、怪しいことこの上ありませんがね」
機嫌悪そうに言う副会長は俺のことはどうでもよく、柑太くんと王道くんが同室なのが気に食わないらしい。てか、柑太くん、王道くんと同室なの?
てことは、つまりカモフラージュってとこ?
花ちゃんに視線を合わせると、こちらもわかったように頷く。詳しい話は卜部さんに聞くしかないか。
「つまり早間巽と部屋が別れたっつーことだろ、ラッキーじゃねーか」
「花巻」
ひょいと俺の手をとって言う花ちゃんはたぶん彼氏的行動をとってくれているんだろうが、ちょっとやめてほしい。らしくなくて笑いそう。ま、そのまま適当に挨拶して連れ去ってくれるとこはときめくけどね。さすが花ちゃん。
取り敢えず人気のないかつあたりの見回しやすい屋上に移動する。次の授業はサボりてことで。
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