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*vivid vermilion
エピローグ
それからどうしたと言われれば、俺たちはそれでもやはり転校した。
カズくんが仲間になるのならこのまま学校に居座っちゃっても問題ないのかな、と俺としては思ってたんだけど、隊のほぼ全員から却下を食らったからだ。

「もう転入手続きすませたから面倒くさいしちょっと手間がかかるから、難しい」
「会長が朱雀隊に入るなら別方面に面倒が増えるに決まってんだろ。守るこっちの身にもなれよ」
「ゆうちゃんを傷つけるような奴らが居るところに、私がゆうちゃんを置いておけると思う?」

とのことである。カズくんは残ってほしいと思ってたみたいだけど、姉様まで反対側に加わったとなると、それは反対したって覆らない決定事項だ。生BL見放題の空間から出なければならないのは悲しいけれど、仕方ない。
まあ、カズくんが朱雀隊ならきっと堂々と俺を守ろうとしてくるだろうし、親衛隊関連の問題が増えるだけだというのは、確かに目に見えて明らかだし。
そんなこんなで俺たちは転校して、カズくんは家族に説明できるはずもないためそのまま学園に残留。そして休み日だけ朱雀隊の本部に顔を見せることになったわけだが。

「夕歩、一週間ぶりだな」
「てめえ新入りだろ!何リーダーのこと呼び捨てにしてんだコラ!」
「あ?こいつは夕歩で間違いないだろ」

 とても面倒なことになっています。
 まあ、他の子たちと違ってカズくんは基本的に俺らをあまりトップとして見ていない……いやトップとして見てはいるけど、なんていうか、信仰の対象としていないからなあ。基本うちの隊員は俺か姉様に対して信仰心のようなものを抱いて夢見てる子が多い。大将だとかお嬢だとかリーダーだとか、なぜか不思議なほどに固定されない敬称で呼ぶのもそれが理由だ。花ちゃんに関しては、俺を諌めるのに使うための呼び名って感じだけど。
 すいと肩を抱き寄せられるのに苦笑する。なんといってもカズくんは距離が近い。まあ理由はわかるよ。俺のこと好きなんだよね。全力アプローチのつもりなんだよね。ただ、とはいえうちに入った以上基本なんでも許すけれど、なんでも許すわけにはいかない。

「カズくん、あんま名前で呼ぶ癖つけちゃダメだよ。任務のときに本名ばれたらいろいろ面倒でしょ?」

名前を知られればばれることが増える。だから俺たちは基本名乗らないようにしている。それは隊則で決まっていることで、みんなが徹底していることだ。じゃなけりゃいつまでもカズくんだってソルソル言って探し回ってなかったはずだからね。
俺の言い分には納得したのか、カズくんは新しい呼び名を考える。なんだろう、ろくな呼び方にならないような予感がするのは気のせいかな。主にみんなから怒られる方向で。

「会長サマよ、言っとくけどこいつのこと自分のものにしようとするならすぐに朱雀隊にはいられなくなるぞ」
「……花巻」

おお。まるで俺と同じ予感に駆られたように花ちゃんが声をかけてくれて、俺は感心する。どうやら後輩を育てる気ではあるらしい。まあ、強さで言えば花ちゃんと同じくらいに強いんだから戦力にはなるのだ。利点以上の不利益を見せるなよ、と釘を刺すような花ちゃんの視線を、カズくんはまっすぐに受け止める。

「じゃあ、お前はどうなんだよ?こいつのこと私物化してないっつーのか?お前のもんにしようとしてないっつーのか?」

キスまでやらかしといて。そんな言葉が聞こえる気がする。一応みんなの手前言わないでくれているのだろうが、別に知られても困るわけではないんだよね。花ちゃんをなめないでほしい。創設から付き合ってるだけあって、他から一目置かれてるのが花ちゃんなのだ。……主に仕事は俺のお守りでそんな風には思われないけど。
カズくんに言われ、花ちゃんは周りの様子を見ずに、鼻で笑う。何を言っているのかと。

「夕歩は俺のもんにはならねえよ。俺は大将のもんらしいけどな」

軍配が上がるには一言で十分だった。

「花ちゃんかあっこいい!」

できればその言葉を誰か素敵な攻めの前で言ってほしいほどに!

「お前以外に言うつもりはねえからな」
「ふべっ!叩かないでよ何も言ってないじゃん!」
「言ってんだよ、顔が」

相変わらず冷たさの限りを尽くす花ちゃんである。それでもなんというか、素直というかデレが多いのはカズくんが居るからだろうか。ううん。よくわかんないけど、そのあたりは気付いたらいけない気がする。気付いちゃ負けだ。

「……花巻が夕歩のもんなら、俺だってそうなはずだ」
「え?」

周囲もさすが花ちゃんというムードでいる中、カズくんがぼそりと呟いた。同じ朱雀隊なんだから。と言われれば、まあその通りなんだけども。

「そのうえで、俺は夕歩も俺のものにしたい」
「え」
「仕えて守ってるだけの花巻より対等に脅かす仲間になってやるよ。……てめえらも認めさせてやる」

……それは朱雀隊の在り方に反するから、花ちゃんが忠告したのでは。
とはいえ、カズくんの見目で堂々とそんな宣言をされて、反論の声を荒げるものはいなかった。もちろん反対者がいなかったわけではなく、純粋に、ぽかんと呆けているだけのようだが。こんな考え方する子、うちにはいなかったもんね。
別に朱雀隊は目的を遂げるためだけの集団なので隊として新しいものを入れて強くしようだなんてスポ根な考え方はしてないけれど。まあ、いい影響を受けてくれたら、それはそれで止めはしないなあと思う。
とりあえず一度花ちゃんの顔を確認すると、その視線はカズくんとは違う方向にあった。
なんだ?と思って明後日の方向を向けば、明後日には姉様が居た。なるほど、そんな顔をするわけだ。きらきらと楽しそうな姉様に、自分のことじゃなければ俺もあっちの立場で居れたのになあと思う。我がことながら、こんなおいしい現場を傍から見ていられる姉様が羨ましすぎる。
でも、うん。取り敢えず俺としてはね。別に取り合われるお姫様をしたいわけではないけど。

「言っとくけど俺は何も選ばないよ?」

朱雀隊発足の元凶を捕まえたからって、朱雀隊がなくなるわけでもなければ行動理念が変わるわけでもない。それはつまり朱雀隊の在り方も、俺から隊のみんなに対する態度も変わらないということで。

「俺は俺的正義を執行するだけだからね」

それが朱雀隊で、俺の意味だから。



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