*vivid vermilion
13
朱雀隊のできた経緯。瀬良との関係。俺達のしてきた活動とその理念。
最後のほうは少し言い訳っぽいけど、前から一応言っていたことだし、結構な人が知っているので喋った。悪いことしてると朱雀隊が来るぞって言われるのは目標だしね。
「ま、そんなわけで無双はただの八つ当たりで潰したんだよ」
本音のようなものを漏らすと花ちゃんが、軽く俺を叩いた。
「ただの八つ当たりではねぇだろ、バカ」
正義の名の元にだろ。
「言うじゃない花ちゃん」
正義なんて言葉平気で使っちゃって。ニヤニヤしてればもう一度小突かれた。だから花ちゃんは俺を叩きすぎだ。
「…事情は、なんとなくわかった」
花ちゃんと戯れていると、俺の説明を聞いて少し考え込んでいた会長サマは、あまり納得してはいないように頷いた。けど、まあ、理解はしてくれてるみたいだ。
その上で。
「頼むから俺の前でいちゃつくのはやめてもらえるか?」
気になるところはこそらしかった。
ううん、視線が痛い。
「ソル」に向ける焦がれる恋心を全乗せさせた視線に、俺は居心地が悪くて会長サマから少し距離を取る。けれど後ろからの圧力に、俺は前に体をつんのめらせた。何かと思って見れば、
「ねえさま…」
「うふふ、ゆうちゃん、なあに、おいしいことになってるじゃない」
「……」
まあ、お姉様がこの状況を見逃すはずはないよね。
弟でだって萌えられるのが姉様だ。
「おいしくはないよ姉様。そりゃあ俺を板挟みにしていたはずがいつの間にかケンカしてたあいつが気になって、最終的に会長サマと花ちゃんがくっつくならとってもおいしいし面白いけどさ」
「気持ち悪い妄想はやめろ」
べしっと頭を叩かれて、俺は満身創痍の上さらに辟易した花ちゃんを睨む。ちくしょーいつも通りで嬉しいじゃないか。久々に腐った言葉に絶妙なタイミングでツッコミをいただけた気がしてにへらと笑えば花ちゃんは何を勘違いしたか、再び嫌そうな顔をした。べ、別に花ちゃんが会長サマに襲われる妄想なんてしてないんだからね!いや、まあ本当にしてないんだけど。むしろ襲われるよりはケンカ中に押し倒しちゃってそこから避けるようになって気になり始めて……とかの方がおいしいよね。俺は当て馬役を完璧にこなしてみせるよ!
「リーダーが当て馬役を買って出るな」
「おっと声に出てた?」
「花くんはそろそろ安静にしなさいね」
むにゅ、と、頬を挟まれて、俺は自分の真上から聞こえた声に顔を上げる。誰かなんてのは見ずともわかる、先ほど尋常じゃないかっこよさを見せてくださった卜部さんだ。
「ゆうくんも、もうそろそろ撤退の時間だよ。お話はおしまい」
「ふぁあい」
引率の大人のようなことを言う卜部さんに、とりあえず素直に返事をしておく。帰ったらあのかっこいいモードの卜部さんについていろいろ感想を押し付けつつ問い詰めるつもりだ。いつもは隠してるけど実はそういうキャラだったんですかーってね。
卜部さんの言う通り、柑太くんや梨人くん、他のみんなも完全に撤退準備に入っている。まあこれで全部終わりってわけじゃないからね。今麻袋を被せられている瀬良だとか、気絶したまま縛り上げられた篠原だとかの処理は、この後の仕事の予定だ。きっと俺はハブられるんだろうけどと思うのは、今動いているのが姉様のお付きばかりだからである。
だから、ともかく。
「じゃー、俺らも撤退しますかあ」
花ちゃんを見て言えば、花ちゃんは面倒くさそうに頷いて――その視線をそっと、俺の後ろに向けた。
「…………」
それが、自分が名残惜しむような視線だったならとてもおいしくてよろしかったんだけど。
残念ながら一目でわかる、「そいつはいいのか」とでも言いたげな視線に俺は、仕方なく振り返る。
「あー……会長サマ」
すんと、顔から表情を消す。見せるのはこの学園で見せていた、嘉山夕歩の顔だ。会長様の言うソルとは違う俺。それは完全に作り物ではあったけれど、俺ではなかったわけではない。
「お世話になりました。いろいろ腹も立ったり面倒かけられたりもしましたけど……結構、楽しかったですよ」
不謹慎だけどね。
ずっとずっと、計画に支障を出して、面倒くさくて、花ちゃんともケンカして、好きだとかなんだとかに振り回されるのが鬱陶しくて仕方なかったけれど。
それでも、ちょこちょこと楽しかったのは事実だ。あんま考えてこなかったけど、実はね。
頭を軽く下げて、俺は顔を上げる。
「じゃ、あとの説明不足だとか…あ、あと散らかったままの問題は全部梨人くんあたりがどうにかしてくれるんで」
言えばちょっと遠くから「え」と声が聞こえた気がした。梨人くん……ドンマイって感じだ。
そうして俺はそんな感動的にもなりきらない挨拶をして踵を返し、みんなの――朱雀隊の元へ戻る。
つもりだったのだが。
「待ってくれ」
引き止められた。
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