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*vivid vermilion
11

目の前で何が起こったか、わからなかった。俺の名前を呼ぶ声をBGMに振りかぶられた篠原の腕を、それでも目を閉じずに見ていると突然バチンと男が聞こえた。そして気付けば、
篠原が倒れていた。
そうして、

「なあに、また踏んでほしいの?」

倒れた篠原の後ろから現れたのは、綺麗な金をなびかせる、

「姉様…」
「うちの可愛い夕ちゃんに何してくれてんだ、」

とても年頃の女子が使ってはならない、お伝えできないような暴言を吐く姉様。嘉山月乃だった。

「…月乃」
「お前は私を呼ばないでよ。私の名前が腐るじゃない」

しゃらりと髪を靡かせて姉様は瀬良に向かう。とても自分の襲われた原因と対するとは思えない佇まい。微笑む表情は紛れもない「姉様」のものだ。
ここにきて。はじめて、瀬良の顔が歪んだ。

「るああああ!!」
「!?」
「お嬢!大丈夫か!?」

唐突に聞こえた雄叫びに驚いて向けば、今度は柑太くんが現れる。その後ろには梨人くんも。
どういうことか。
姉様が現れたのを皮切りに、林の奥から数秒間悲鳴が聞こえ、ぞろぞろと人が集まってくる。そいつらは全員見知った顔で、俺の仲間で。
朱雀隊。

「なんで、」
「あら。いつもの余裕の仮面が剥がれてるわよ。黒幕ごっこさん」
「…月乃 」

瀬良は驚いた顔をしていたが、きっとすぐに事態を飲み込んだのだろう。姉様を睨む。
朱雀隊がここに居る理由。そんなもの、瀬良の予定に反して瀬良が朱雀隊に送り込んだ奴ら全員がやられただけだ。決まっている。だがそんな単純な答えも瀬良にとっては満足のいくものではない。だって瀬良のなかでは、朱雀隊は壊滅しているはずなのだ。

「残念だけど」

睨まれてなお悠然と微笑む姉様の後ろから、のそりと一人が顔を出す。気だるそうな声は顔を見なくとも誰かわかった。

「きみの計画は失敗。僕相手に策略仕掛けたのが間違いだったね。単純な喧嘩にしておけば、もう少し時間稼ぎできたかもしれないのに」

朱雀隊の素敵で大人なお兄さん、卜部さんだ。

「大人舐めんなよ、クソガキ」

か。
かっこいい…!
レアな卜部さんにきゅんきゅんする。ちょっと、今の録音しておくべきだったでしょ。誰かしてないの!?

「………」
「………」

梨人くんが、しているみたいだった。
取り敢えず親指だけ立てておいて、俺は、会長サマを見た。安心なことに、どうやら怪我はない。それから、こっちは安心はしてるけど、花ちゃんを向いた。予想通り、朱雀隊の他のメンバーに助けられた花ちゃんは俺を見ている。目が死んでるのはたぶん、俺の梨人くんへのグッジョブを見てしまったからだろう。
そして最後に、瀬良に向いた。

「結局お前が負けたな」
「そんな俺にも、お前は負けてたけどな」
「……」
「また同じことの繰り返しになるだけだ。お前は月乃の亡霊と一緒に、一生俺を恨むしかない。そうだろう、」

夕歩。

瀬良は言う。きっとこれだけは正しいことを。
震える拳を握ったのは、ただ鬱憤を晴らすためだった。こいつが腹立たしくて、恨めしくて。恨みで俺はそれを振りかぶる。姉様は止めない。
だけど、

「っえ」

ばき、と。
俺の拳が届くよりも先。
瀬良の顔を捉えていたのは、会長サマの拳だった。

「てめぇみたいな奴が、軽々しくこいつの名前を呼ぶんじゃねえよ」
「か、会長サマ…?」
「ずっと、俺の探してた奴の名前だ」
「…」
「俺の好きな奴の名前だ」

吹き飛んだ瀬良は立ち上がれないかのように顔を押さえて会長サマを睨む。まさか自分の拳を盗られると思わなかった俺は呆然で、俺が殴ると思っていただろう仲間も呆然。
ただ姉様が視界の端でにやけているのだけはわかった。
そんなだから、

「じゃあ俺はヒーロー辞めさせられた恨みで殴るわ」

二撃めに気付いたのは再度瀬良が殴り飛ばされてからだった。

「花ちゃん!?」
「大将、無事か?」

いつのまにかこっちに来ていた花ちゃんを見れば殴られてボロボロだ。

「花ちゃんに比べれば、全然」

ていうか俺は殴られたりしてないし。
うおお、なんだこれ。
会長サマが自分の都合で殴って。
花ちゃんが自分の恨みで殴って。
完全に二人して俺の拳を奪いやがった。強者の渾身の一撃を二発も食らえばさすがの瀬良も伸びている。これは写真を撮らなければならないだろう。
その前に。

「二人とも横取りやめて!?」

俺は俺の恨みで、気絶した瀬良の顔面を、もっと腫れるようちからいっぱい殴った。



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あきゅろす。
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