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*青春コンフリクト
蚊帳の外

【政木章緒】

俺の先輩たちは、非常に厄介だ。

山内和史先輩。
柚子島尚木先輩。

とても仲の良い、二人の先輩。
山内先輩ことカズさんは、俺の憧れである。性格は無駄に男前で、兄貴肌。背は低い(言ったら怒られる)けど、部内でもトップクラスの実力。しかもその実力は努力によるもので、本当に眩しい人だと思う。
柚子島先輩事ナオさんは、多分否定すると思うが俺と似てる、と思う。臆病で、人一倍他人を気にしている人。俺と逆なのは、他人を気にして話さないか、他人を気にして話続けてしまうか、ということか。
カズさんはそういうところを見て、俺にナオさんを紹介した。
だから俺は高校生になってすぐ、二人とちょくちょくつるむようになり、今に至るわけだが。

「おい、柚子島。柚子島!」
「んー…うるさいい…」
「人ん家来てマジ寝しようとすんな!」

正直、しんどい。
まぁなんといいますか、この二人、ラブラブなのである。
常にこんな感じですからねこの人たち、一緒に居る後輩としては堪ったもんじゃないよね。
しかもこの先輩方は悪気もそんな気も全くないものだから、本気で厄介だ。この人たちと居るのは楽しいけど、たまに思う。
俺、要る?
どう見てもこれ二人の世界じゃん。俺要らなくないですか。勝手にイチャラブしてればいいじゃないですか。

「十分だけ…」
「ちょ…ああ、ったく、普通寝るかよ…」

小さくため息を吐くカズさんだが、その目には慈愛のようなものがありありと浮かんでいる。この顔を見ていればよく思う。

「カズさんて、本当ナオさんのこと好きですよね」
「あ?」

あ、やべ。
返ってきた低い声にドキッとする。この先輩は、怒らせると怖い。

「あ、いや、ホラ、いつも父親のような目でナオさん見てるじゃないですか!」
「あー…。こいつ、子供みたいだからな」
「あっはは…なんとなくわかります。たまに自分が年下だってこと忘れそうになりますもん」

適当な言い訳で元に戻ったカズさんの声に安堵しつつ、会話を続ける。
こういうところが、俺とナオさんの似て非なるところ。ナオさんならきっと黙ってしまうこの場面で、俺はこうやって必要以上に口を動かして、

「なんか可愛いですよね、ナオさんって」
「…は?」

地雷を踏む、と!

不機嫌そうに歪んだカズさんの顔に本気でビビる。ていうかこの人、地雷多すぎやしませんか!!

「な、なんというか、子供とか動物みたいな可愛らしさを感じさせますよね!」
「…まぁな」

未だに睨みながらも同意してくれたことで助かったと判断し、再びこっそり息を吐く。
まったくもって、厄介な人だ。
ここまで好きで、ここまで独占欲を持っていて、自分の気持ちに気付かないふりをしているんだから。

きっと本人も、自分自身認めようとしていないが、ナオさんを好きだ。多分そういう意味で。
そして。

「ん……るさい」
「あ。起きたか」
「山内さんも政木くんも、人が横で寝てるのに大声で話すんだもんー……」
「だから寝る方がおかしいんだっつーの」
「いーじゃん別にぃ。それより喉乾いた」
「お前本当に自由人だな…」
「山内さんにだけだよ」

多分、この人も。

「…知ってる」

ため息を吐いて一回に降りて行くカズさんを見送り、ナオさんはもう眠気は覚めたようで他愛のないことを話しかけてくる。ただし「山内さんって無駄に優しいよね」だとか「山内さん怒ってた?」だとか、どれもこれもカズさんの話題ばかりだが。会話のレパートリーがそれしかないくらい、この人のあたまはカズさんばかり。
だから多分、ナオさんもカズさんを好きだ。ただカズさんと違うのは、

「ナオさんってカズさんのこと大好きですよね…」
「んー。まぁ、ねー」

照れたように笑い、「言い方は気持ち悪いけどね」なんて言うこの人は、それをただの親愛と勘違いしているところ。
まぁ、ナオさんの場合友達が居ないと自ら言うくらいだから仕方のないことなのかもしれないけど。
でも…。

「柚子島。持ってきたぞ」
「ありがとー山内さん」

結局はそういうことで。
こうして考察しつつ二人と居る俺には関係ないことなんだよな…。

これはカズさんとナオさんの、片想いの話。

なのに…。

「政木くん、どうかした?」
「せっかく飲み物持って来てやったのに、要らねーのか?」

俺も関係しているみたいになっているのは、どういうことなんでしょうか…?





(外に居ると思っている俺は)
(立ち位置を見誤ってる…?)


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あきゅろす。
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