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*青春コンフリクト
どっちかと言えば

【柚子島尚木】

「山内さん遅いねぇ」

放課後、俺があいつの帰りを待つのはいつものことなのだが、今俺の横にはあいつの後輩の政木くんが居た。なんでもあいつが先生と話してるから遅れると、わざわざ教えに来てくれたらしい。
さすがに慣れたし話せるとは言っても、やっぱり俺は俺で気まずくて、誤魔化すように笑いながら言う。
政木くんは気兼ねなく話してくれるのに、俺は本当にダメだな。きっと政木くんも、俺がそう思ってるってのはわかってて、それでもちゃんと話してくれてるんだろう。やっぱあいつの後輩らしいや。
なんて、そんなことを思いながら話を待っているが、

「………」

返ってくるのは三点リーダー。
…何か悪いことでも言った、俺?嫌な気分にさせてしまった…?
どうしよう…。

「俺っ…あの、」

不安で心臓が煩く鳴る。うまく言葉が出てこなくて、俯いてどうしよう、どうしようと考えていると、政木くんの視線がこちらに向いた。
そして、

「ナオさんって、なんでカズさんのことさん付けで呼んでるんですか?」
「…へ?」

予想外のことを言った。

「えっと…」
「あ、すみませんいきなり。前から気になってたんですけど、ナオさんってカズさんのこと『山内さん』って呼んでるでしょ?なんでなのかなーって」

なんで、って。
これは、嫌な気分にさせちゃったとかではない、ってこと、だよね…?

「………」
「ナオさん?」
「あ、いや、呼び方…だっけ?」

政木くんの言ったことを脳内で復唱して、答える。
頷いた政木くんに、そういえばおかしいのかなと思う。まぁ、確かに同級生の男友達をさん付けって、あんま聞いたことないかな…?

「最初は山内くんって呼んでたんだけど、山内さんが気持ち悪いからやめてくれって言ったから」
「いやまぁ、くん付けはくん付けであれっすけど…呼び捨てにはしないんですか?」
「呼び捨て…」

別にこだわりがあるわけではないし、確かに他の同級生も山内って呼んでる。ていうかあいつに山内くんはやめてって言われてから俺も最初は確か呼び捨てだった。

「え、じゃあなんで?」

昔のことを言えば、尚更不思議そうな顔をされた。

「なんでって言われても…最初はノリだったのが定着して…みたいな?」
「なるほど」
「それにさ、あいつ、呼び捨てって感じじゃないでしょ?」

思わず顔を綻ばせると、政木くんは少し考えてから、同意してくれた。

「かも、ですね」
「でしょ?なんかちょっと偉そうなとことか、俺より背低いのに兄貴風吹かせてるとことか、男前なとことか…」
「くぉら柚子島!」
「あいたっ!」

同意してくれたことが嬉しくて話していると、背後から頭を叩かれた。振り向いて座っているため見上げれば笑顔のそいつ。

「山内さん…」
「何俺の悪口言ってんだ」
「悪口じゃな…ごめんなさい!」

否定しようとしたらより一層笑みを深められた。こういうところが偉そうなんだよ…。なんていうんだっけこういうの。俺様?

「山内さん横暴…」
「うるせ。帰るぞ」
「はぁい」

教室を出るそいつに続くため鞄を持って立ち上がる。が、同じような行動をしない政木くんに、不審に思って振り返る。
未だに座っている政木くんは、何故か俺を見上げていた。

「政木くん…?」
「あ、はい。すみません」
よくわからなかったが、普通に立ち上がった政木くんを待っていると、ドアの方から声がかかった。
「おい、早くしろよ」

待ちくたびれたみたいな顔をしてるが、ほんの数秒のことなんだけどな。

「自分が待たせてたくせにねー」
「だからって悪口はいけません!」
「悪口じゃないってばぁ」

駆け足でそいつの隣に行くと背後からなんとなく、呆れたような気がした。
未だぶつぶつ言っている隣の山内さんのおかげで、気にはできなかったが。


(悪口っていうかノロケられた気分になったんだけど…)
(「どうしたの政木くん?」)


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