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*青春コンフリクト
それもコンプレックス

【柚子島尚木】

テスト期間は嫌いだ。

勉強しなくちゃいけないとか、もちろんそういうこともあるけど、嫌なことがあるから。
こいつが慕われてるのを、間近で見なければならないから。

「カズ先輩ー!自主練しないんですかー?」
「うるせー。お前ら勉強しろー」

山内さんはみんなから好かれてる。男子も女子も、後輩も先輩も同級生も。いろんな奴と仲が良くて。いろんな奴に好かれてて。
別にこいつが慕われてるのが嫌なわけじゃない。慕われてるのを見たくないんだ。今横に居るこいつが、遠い存在みたいで、俺なんかが隣にいいのかなって。
そんなことを思ってしまうから。

「ナオさん」
「?」

後輩たちに囲まれて楽しそうに話している山内さんを横で見ていると、不意に横から声を掛けられた。俯けていた顔を上げると、そこには長身だとよく言われる俺よりも背の高い、部活や委員会に属していない俺の唯一の後輩が居た。

「政木くん」

山内さんの中学と部活の後輩である政木章緒くん。あいつの紹介で知り合ったこの子は明るくて優しい、まさに山内さんの後輩って感じの子だ。

「相変わらず人気者っすね、カズさん」

少し離れたそちらに数歩駆け寄れば、痛いところを突かれてぎくりとする。俺の考えていたことがバレているみたいに思えて、心臓が少しうるさくなった。

「そ…だね」
「あ、いや違いますよ?」

俺の返答が下手だったせいだろう、政木くんは少し慌てたように首を横に振る。こんなことで動揺して、後輩気遣わせてしまうとか、俺のバカ。

「違うって、なにが?」
「え!?いや、その…うう…」
「そんなにテンパらないでよ」

どう言ったものかとわたわたしている政木くんに思わず笑ってしまう。気まずいから茶化してみただけなんだけど、こうまで焦られると逆に助かる。この子と仲良くできてるのはきっと、山内さんから紹介されたからだけではなくこういう性格のおかげでもあるんだろうな。

「…ナオさん。あの、他の奴ら連れて行きましょうか…?」

まぁ、その性格のおかげで困ることもあるんだけど。

「いいよ。悪いしね」

せっかく茶化したのにさ、なんて思いながらも笑顔は上手に作れなかったらしく、政木くんは辛そうな顔をする。他人事なのに、ホントにいい子。

「…情けないね、俺。あいつが後輩に囲まれてるの見ると、寂しくなるんだ」
「ナオさん…」
「ごめんね、愚痴って」
「いえ、俺も気持ちはわかりますから」

気持ちはわかりますって。
まったく優しいな。こういうタイプだから、あいつとは違っても友達は多いだろうに。
…なんて、そんなことを考えちゃう自分も嫌になる。コミュ障なだけならいいけど、良くしてくれる親友の後輩に卑屈になったりするなんて。

「面倒臭い奴…」
「ナオさん?」
「ん、あ…なんでもないよ」

笑顔を作れば、政木くんは少し心配したような顔で口を開きかけ……たのを遮られた。

「章緒」
「ぐぇッ!?」
「山内さん」

いつの間にこっちに来ていたんだと思いながら山内さんを見ると、なんとなく微妙な顔をされた。なんなんだろうと思いつつも政木くんを見ると、顔が青くなっている。そりゃ俺より更に背の高い政木くんだから、下から首根っこを掴まれれば当然首絞められるよなぁ。

「山内さん、政木くん死んじゃうよ」
「このくらい大丈夫だっつの」
「大丈夫じゃないっす…」

苦しそうな政木くんを見ながらも、仲良いなぁ、なんて思っちゃう俺は、やっぱり、情けない。




(政木くん相手でも嫉妬だなんて)

(「お前はでかいんだから柚子島と並ぶな!」)
(「んな無茶苦茶な!」)


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