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*青春コンフリクト
今のでも楽しいけど

【山内和史】

あいつの家に行くのははじめてではない。どころか家もそう遠くはないし、わりと頻繁に遊びに行ったり来たりしている。
だからその日も普通に遊びに行った。休日で、部活も午前で終わったし、ただ二人で遊ぶためあいつの家に行った。

のだが。

「章緒?」
「あ、カズさん。どもっす」

そこには何故か、俺の後輩が居た。

「なんで章緒が」
「たまたま政木くんと会って、誘ったんだ」

意味がわからず通された部屋の入口で立ち尽くしたまま呟けば、後から入って来た柚子島が当然のように笑いながら答えてくれた。

なるほど理解はできた。俺の中学、また今の部活の後輩である政木章緒をこいつに紹介したのは俺だ。なんとなく、波長が合いそうっつーか性格が合いそうだったので気おくれせずに話せるかなと思っていたし、実際最近ではまともに冗談が言い合えるくらいに仲良くなった。
でもまさか、俺が居ない間に家に呼ぶくらいまで仲良くなってるとか、思わないだろ…。

「…そうか」
「あ、俺、お邪魔なら帰りますよ!」

俺の声が無意識に低くなったのに気付いたのだろう。章緒は少し慌てた様子で立ち上がった。それに対して首を傾げるのは柚子島で。

「なんで?政木くんが居た方が楽しいでしょ?」

何も考えていない顔で俺に言ってきた。
まったくわかっていないと思う。
久々の午前部活で遊びに来れることをどれだけ俺が楽しみにしていたか。よく遊びに来るとはいえ俺は部活もあるし、昼から中遊べる日などそうはない。精々学校帰りに寄ったりとか、そんな程度だ。
なのに…なんて、考えてはいけないことを考えようとしたとき。

「山内さんが」

さっきと変わらないトーンで続けられた言葉に、一瞬思考を停止した。

「…」
「?」
「…お前な」

そしてすぐに動き出した、正常に戻った頭で考えるのは、こいつはまた、ということだった。

「俺が楽しいって、お前が楽しくなきゃ意味ないだろ」
「?俺だって楽しいよ?政木くん面白いから。さすが山内さんの後輩だよね」

…また、平然とそういうことを言う。
いつも思うが、こいつは少々俺を過剰評価しているところがある。本当の俺はこいつの思っているような奴ではないのに。

「あ、あのー…それで、俺はここに居てもいいんですかね…?」
「あ?ああ、居ろ居ろ。ゲームでもしようぜ」

話が途切れ微妙な空気になったタイミングで控えめに訊いて来た章緒に軽く返す。こいつは何気に空気を読むのがうまい。

「たまには、いいか」

誰にも聞こえないように呟き、楽しそうに話している動かない二人に、慣れたものだしと仕方なく俺が勝手に用意をする。
こいつの家ってほとんどのハードが揃ってるんだよな。なんでも弟がゲーム好きらしい。ただ、こいつの家は何度も来たが一度も、そして誰一人家族を見たことがない。謎だ。

そんなことを考えながらゲームを開始すると、章緒に負けた。思いっきり。

「ちっきしょー…」
「カズさんといえども格ゲーでは勝たせませんよ!」

さっきの控えめな態度はどこへやら、思い切りドヤ顔の章緒だった。殴りてぇ。

「山内さんの仇は俺が取る!」

…柚子島が珍しく悪ノリして楽しそうだから、しないけど。

「あなたにこの俺が倒せますか…ってえええ!?なんですか今の!?」
「はめ技?」
「ナオさんすげー!」

瞬殺された割に楽しそうな章緒と少し得意げな柚子島に笑みが漏れた。

たまにはいいな、こういうの。




(なんて思いながらも少し二人きりがよかったなんて思ってしまう俺は)
(もうダメなのだろうか)


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