*青春コンフリクト
眩しくて見えない
【柚子島尚木】
あいつとはじめて会ったのは、入学式の日だった。
「俺、山内和史。よろしくな」
そう言って明るく笑った前の席のあいつに、俺は、
「柚子島尚木、です」
苦手なタイプだと思った。
俺は人と話すのがあまり得意ではない。
中学の頃はまだよかった。周りが小学校から同じ奴らばかりだったから、まだ慣れた奴らが多かった。でも高校は違う。俺の行った高校は知り合いがいなくて、同じクラスに至っては顔見知りすら一人もいなかった。
不安で不安で、それでも内心、一人って案外こんなものなのかな、なんて考えていたときに話しかけてきた、前の席のそいつ。明らかに体育会系で誰とでも親しくなるタイプの奴。
文化系で友達作りの苦手な俺とは真逆の奴。
だからやり過ごそうとした。まぁそんなことをしなくても、こういうタイプは俺みたいにコミュニケーションの取りにくい奴からは適当に離れて行くんだけどな。なんて、そんなことを思いながら。
しかし。
「お前中学どこ?」
「…西中」
「マジで?じゃあ電車通?」
「うん」
「俺もあっち方面なんだよ!よかったー」
めげなかった。そいつはバカみたいに眩しい笑顔を浮かべ、無駄に明るい声でひたすら話しかけてきた。
なんなんだ、何が良かったんだ。
「今日、一緒に帰ろうぜ?」
「…はぁ」
突然の申し出に俺は、気の抜けた肯定を返すしかなかった。
あいつは予想通り明るく人気者で、決してかっこいいわけではないがみんなを惹きつけるような奴。いつも愉快そうに笑っていて、でも人が間違えたことをすればちゃんと怒る。自分の意見を持っていて、言いたいことはちゃんと言って、でも言っちゃいけないことはわかっている。
そんな奴。
そして、
「柚子島、帰ろうぜー」
こんな俺と、毎日一緒に帰ってくれる人。
最初は上手に話せなかったし、一緒に帰ることも、こんなに明るく優しい人に気を遣わせるのも苦痛だったけど、徐々に話せるようになってきて、楽しくなってきて。
俺はそいつと親友なんて言葉に出すのが恥ずかしい間柄になっていた。
「柚子島ー」
「山内さんおっそいー」
「悪い悪い…って、いつもと変わんねーじゃねーか」
時計を見ればいつも通りの、夕陽の差す時間。
一緒に帰りたくて、部活に入ったこいつを待つと言い出したのは俺だ。一年の頃から変わらず、俺は教室で山内さんを待っている。その時間が好きなことは、言わないけれど。
(ああ、でも…)
この時期は、あまり好きではないかもしれないなぁ、なんて思ってしまうのは。
「せいっ」
「うおっ!?いきなり何!?」
「なんかむかついたから?」
「なんで!?」
夕陽を背負う山内さんの顔がよく見えなくて、――寂しかったから。
軽く受け止められてしまった体育着入れを奪い返しながら位置を逆転すれば、少し不満そうな山内さんの顔が見られる。
それに満足しながらも明日は廊下まで出て待とうと思う俺は、バカなのかもしれない。
(お前が眩しいのはいいけど)
(お前が見えないのは困る)
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