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*青春コンフリクト
独り占めは良いもんだ

【山内和史】

「山内ー」
「あー?」

俺は基本的にクラスの奴らとは誰とでも話す。

「最近この辺で不良校の奴らがたむろしてるって話聞いたかー?」
「知らねーよ。つーか不良校って」
「一組の田中と橋本がカツアゲされたって。お前も気をつけろよー」

けらけらと笑いながら、ひとつも心配してないみたいに言う目の前のお調子者も、そんな感じだ。

「あ、柚子島も気をつけろよー」

でも俺の前の席のそいつは。

「え、あ、うん」

柚子島尚木は違って。
人見知りで会話が苦手なこいつは、俺と俺の紹介した後輩以外とまともに話しているのを見たことがない。後輩に会わせたあともしばらくは気まずそうだったし、話すことはできても慣れるのは時間がかかる。でもまぁ、お互い波長が合いそうだと思って会わせた俺の勘は正しかったらしく、今ではわりと仲良くやっている。

俺の方が仲良いけど。

「お前さー、そろそろ人見知り直したら?」

変な忠告を残して去って行ったクラスメイトを見届けた柚子島が安心したように息を吐いているのを見て、声を掛ける。こちらを向いた顔は先ほどまでのように強張ってはいない。

「人見知りは小さな子供に使う言葉であって、俺のはコミュ障ですー」
「威張って言うな」

軽く小突いてやれば、えへ、と笑う。180センチもある高校生男子がやって可愛い行動ではないはずなのだが、似合ってしまうのがこいつのすごいところだ。

「なぁ。お前俺以外のクラスメイトと話したことある?」
「失礼な。あるよ。今も話してたじゃん」
「今のは話してたって言わねーの。あ、とか、うん、とか以外ってこと。一分以上の会話」
「じゃあ、ない」
「…………」

けろっと言うこいつは、苦痛ではないのだろうか。友達が、俺以外に居ないこの状況が。

「ていうか今更直るもんじゃないっての」

少しだけ面倒臭そうな色が声に出ていたことはつっこまないでおく。
こいつは、多分この話があまり好きではないのだ。だとすれば俺はこれ以上は言わない方がいいのだろう。どれだけ仲が良くとも、その線引きは必要だ。

「山内さんは俺が他の人と話さないと困る?」
「いや俺は困らない…てか、なんで俺が困る必要があんだよ?」
「人気者の山内さんですからねー。俺にばっか構ってられないんじゃないですか?」

話したくなければ話さなければいいのに、うまく話題を変えられないからかそう言った柚子島に、困るならお前だろと言えば、本心を隠すような笑顔と、ふざけたように口調が返ってきた。まったく、こいつは…。

「アホ。逆だろ?俺は長身イケメン柚子島くんを独り占めしてて女子に悪いかなーと思っただけ」
「…独り占めとか山内さん、言い方がキモいです」
「うるせー!ちょっと思ったけども!」
「あっはは!」

真面目に言うのもためらわれて茶化して言えば柚子島は明るい表情に変わる。そしてその表情は次にいたずらっぽいものに変わり、俺に向けられた。

「山内さんは唯一俺と話せる人だね。特別扱いですよ」

なんて言葉と共に。

「特別、ね…」
「…ちょ、なんで繰り返すの。突っ込んでよ俺恥ずかしい人みたいじゃん。山内さん空気読めない!」
「特別なー」
「やめてってば!何その顔腹立つわぁ」

こんな風に暴言を吐くのも、楽しそうに笑うのも、それどころか一分以上話すのも俺だけ。

俺にとってこいつが特別であるように、こいつにとっても俺が特別。

「もう…」
「悪い悪い」

――その特別の意味が違うものだとしても。

「…でもまぁ、話戻るけど、さ。山内さんがそんなに言うなら、俺も頑張りますけど」

特別、と心中繰り返していると、そんな言葉が呟かれた。その言葉にどきりとした自分の心臓付近を黙れという意味を込めて軽く叩いてやる。

「べ、つに…無理する必要はないけど」
「どっちだよ」

くすくすと笑う柚子島。
この笑顔が俺だけのものだとか思ってしまう自分なんて、俺は認めてはいけない。

「あ、でも」
「?」
「みんなの人気者の山内さんを独り占めしちゃうのは、悪いかな?」

「…バーカ、良いに決まってんだろ」




(「人気者ってのは否定しないのかよっ!」)
(「まーな」)
(「うぜー」)


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