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*青春コンフリクト
普通のような

【山内和史】

青春とは実に厄介なもので。

「あ、山内さーん。おかえり」

とてもじゃないけど、面倒臭がってはいられないものである。




学校からの下校道、俺の隣を歩くこいつ…柚子島尚木は俺の友人である。

「遅くなるかもしれないから先に帰ってていいっつったのに」
「いいよ。どうせ帰っても暇だし」

自由人で、無邪気で、子供みたいで、それなのにあまり友達を作らない奴。
毎日部活で遅くなる俺を教室で待ってる、俺の親友。

「ていうか山内さん待ってる暇な間に勉強することによって俺の成績は保たれてるんだしね。この前の小テストなんかさー…」

顔は無駄に整っていて、体は細いのに背は俺よりも高い。いや、俺が小さいわけではなく、こいつが高すぎるんだ。なんだよ180って。

男にこんな言い方をするのはおかしいかもしれないが、イケメンというよりは多分、美人の方が言い得てると思う。でなければ美形か。なんつーか、イケメンとかそういう俗っぽい言葉が似合わないタイプの綺麗な顔立ち。…そう、綺麗、だな。
そこらへんの女よりもずっと綺麗だ。
素直にそう思う。

「って、聞いてる?なに、さっきからジロジロ見て」
「…あー、いや…お前女の子みたいだなと思って」

でもまぁ、口は心ほど素直ではなく、突然の問いに驚いてそんな風に動いたが。前見て歩いてるから、まさか見てるの気付かれてるとか思わなかった。そして話は全然聞いてなかった。
俺の咄嗟の返しに柚子島は嫌そうというよりは、怪訝そうな顔で「はぁ?」と返した。当然の反応といえば当然だが、しかし特に気分を害した風でもなく言葉を返してくる。

「俺より背低いくせに何言ってるの?」
「それは言うな!」

コンプレックスなんだから。更に言い返せば楽しそうに笑う柚子島。完全にバカにしてやがる。……いや、まぁ先に変なこと言ったのは俺だけどさ。

「ていうか突然なんなの?女の子みたいって、完全に悪口だよね」

半分ふざけているのだろう。「傷つくわー」などと言いながらへらりと笑う柚子島に、こちらもついつられた。

「常に甘いもの持ってるとことか、女みたいじゃん」
「ええー。別に持ってたっていいじゃん。男女差別っていうんだよそういうの」

ただの軽口の応酬。友人同士として普通の会話だが、こいつと話すのは楽しいと思う。

「でもじゃあ、山内さんは男臭いですよね」
「男臭い!?」
「うん。こう、男子男子してる感じ?体育会系ーみたいな。ガチムチではないけど」
「いやそれ、男らしいって言えよ」

肩を落とすと返ってくるのは愉快そうな声。
それにまた笑いが漏れる。

俺は大概誰とでも仲良くする方だとは自負しているが、こいつは多分、俺にとって他のやつらとは違う。

こいつは、俺の特別。

――それがどういう特別なのかは、気付いてはいけないことだけれど。




(「あ、そいえば駅前にケーキバイキングできたらしいよ」)
(「中身が女の子みたいだよな…」)


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