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「鏑木ぃーおはよー」
「チッ」

ゆきじの真意を考えていると、教室の入口の方からバカでかい声で名前を呼ばれた。なんだ誰だと考えるまでもなく、喧しい友人なのだが。
…ゆきじ、今舌打ちしたよな。

「あ、蓋見兄妹もおっはよーっす!」
「おはよーうざ井くん」
「蓋見さん俺山井!」

蓋見兄妹、山井嫌いだよな…。
ため息を吐きながら向き直り挨拶をすれば、山井は気にしないようにバカ明るく挨拶を返してくる。嫌われてても邪険に扱われてても全然気にしねーんだからすごいよな…。
こいつも一限サボりではあるが、割といつものことなのでスルー。
しかしまぁ、山井はスルーしてくれないらしく。

「あああっ!鏑木またモテてる!畜生何個だ!何個貰った!」

鞄に入っているチョコを指して騒いだ。
ああもう、うるせー。こいつはモテたがりで、女子と仲良い俺を見るとやたら騒ぐんだよな。別に普通に友達だっつーの。

「もー!なんで鏑木ばっかモテるんだよ!鏑木のイケメン!」
「山井それ悪口じゃない」

こうなると面倒なんだよな…。

「つか山井、彼女居たろ」
「別れたよ!『山井くん、なんか違う』って言ってフラれたよ!!」
「またか…」

こいつ女好きでよく彼女できるんだけど、すぐフラれるんだよな。女運が悪いんだろうと俺は踏んでるんだが。

「てゆーかしましま!!」

一応慰めた方がいいのか、しかし慰めたら慰めたで面倒臭いんだよなこいつと思っていると、すずなが山井を突き飛ばした。…突き飛ばした。

「蓋見さん痛い!」
「面倒臭井くんはいいから、ん!」

文字数すら合ってねぇよという名前を言い、しかし会話に割り込んでおいてその面倒臭井を無視して俺に向かって掌を突き出すすずな。その手の意味はわかっているので、山井は…一応平気そうなのでそっとしておいて、俺は自分の鞄から二つの包みを出してゆきじとすずなの二人に一人ずつ渡す。

「やっふー!ありがとしましま!」
「毎年ご苦労様」
「え、何?何?鏑木…なんであげたの?女子から貰ったものを人にあげるとか、鏑木じゃないよ?」
「バカ。誰が貰ったもんをやるか。これは俺が作ったやつ」

状況を理解できずに慌てている山井に説明してやる。
高校の頃、彼女が居た俺にこれを言い出したのはすずなだった。曰く、『彼女が居るから慎み深い私はしましまにチョコをあげられない!よってバレンタインにはしましまが私たちにチョコをくれること!』だとか。ただ欲しいだけだろ。絶対くれる気なんかねぇだろ。とは思ったが、まぁ言わなかった。
それが恒例化して今に至るというわけだ。

「へぇ…」

嬉しそうにするすずなと、表情には出さないけど何気に楽しみにしていてくれてるっぽいゆきじを見てると、こっちも作ってよかったと思うんだけどな。

「にしても志麻、相変わらずなんでもできるよね」

早速袋を開けて食べているゆきじ。なんでもはできねーけど、まぁ料理はわりと好きな方だ。そこ、女子か、とか言わない。


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あきゅろす。
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