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蓋見由岐路、雑感。

さて。

慣れた道をバイクで走ってそこにたどり着いた俺は昼間の碓氷くんを思う。なんでお前が俺より志麻についていろいろ知っているんだみたいな顔をしていた碓氷くんだったけれど。
別にそんなの大した理由じゃなくて、高校来の友人な以上、俺が志麻の親父と何度も直にあっているからだった。
そして今日のことを知っているのは、俺が再び志麻のバカ親父に会わなければならないからである。

「お。よーゆきじ。おかえり」
「……」

バイクを止めてヘルメットを脱いでいると、そんな軽い調子の声が背後から聞こえる。嫌々振り向けば、へらりと笑う、手に買い物袋を提げた親子。

「久しぶりだなー」
「お前人の友達に馴れ馴れしいにもほどがあるだろ」

ちょうどいいタイミングで帰宅したらしい鏑木親子がそこに居た。

「ていうかチャラいよね、端的に」

そのへんは実は志麻と似てるとは、志麻が本気で嫌がる以上、機嫌の悪くない今わざわざ口に出すことはないけれど。

「息子の親友に馴れ馴れしいのは別にいいだろ?」
「いいか悪いかは知らねえよ」
「よくはないと思うけどね?」

愉快そうに笑うオッサンに、俺は反抗の意図をもって返すのだが。

「いいじゃねーか。チューまでした仲だろ」
「……」
「ゆきじ。気持ちはわかるから人んちの前で仮にも人んちの親殺そうとするのはやめてくれごめん俺が謝るから」

エンジンを吹かした俺に、志麻は本気で申し訳なさそうな顔をした。



鏑木志麻の親父は、変な人間だ。
息子の友人がバイトで料理してるからって、酒の肴を作らせるためだけにわざわざ久々な親子の時間に呼ぶほどに変な人間だ。はじめて息子が家に連れてきた友人をまるで自分の友人かのように接するほどに変な人間だ。息子の親友を、まるで我がもの顔でガキみたいに扱う、変な親である。
俺と志麻の父親が出会ったのは、俺が初めて志麻の家に遊びに行ったときだった。友人の家に遊びに行くなんて事態に柄にもなく困惑していた俺だったが、何よりも困惑させてきやがったのはこのオッサンだった。自分の家以外を知らなかった俺や、すずなからすればこの父親は世間一般の父親の姿なのかとも思ったものだったが、数回会ううちにありえないなという結論に至ったのは妥当な判断だったと思う。
はじめて会った息子の友人にまるで数年来の友人かのような態度で接してきた友人の父親。そんなもの、困惑を通り越していっそ怯えたっておかしくないと主張したい。
とはいえ、そんなオッサンにもすでに慣れたもので、俺は言われた通り酒の肴を作るべく志麻の家で料理をしているわけだけれど。

「なんか、まじごめんな」
「今更謝ることでもないでしょ」
「いや……悪い」
「別に、俺も志麻に都合悪いことしたしね。おあいこってことにしなよ」
「俺に都合悪いこと?」
「先生と碓氷くんと、ついでに代澤にオッサンのこと話したから」
「お前それは謝って!?」

昼間のことを言えば志麻は包丁を持っているというのに過剰反応で俺に食いかかってきた。危ねーぞと言えばそっと包丁だけは置いて、それから濡れてる手は拭いて、詰め寄ってくる。冷静なのか混乱してるのかわからない。

「なんで!?なんでそういうことすんのお前!?腹いせ!?」
「別に問題ありそうなことは話してねーよ。お前がなんでオッサンのこと苦手がってるかって話だけしかしてないし。そもそも隠してるわけじゃないでしょ」
「そうだけどさあ!!」

よりにもよって代澤にさあ!そう恋人である碓氷くん以外の名前を出すところは、わかりやすく志麻だった。志麻、代澤はあんま得意じゃないしね。俺もだけど、あのタイプは基本志麻の苦手とするところだ。

「お?何なに、志麻の新しい友達の話か何かか?」
「お前はここぞとばかりに人の会話に混ざりたそうにすんなよ!」

今の今まで口をはさんでこなかったくせに、やけに面白そうな調子で話しかけてくるオッサンに、志麻は本気で嫌そうにツッコミをいれる。
志麻の父親が志麻の友人関係を気にかけていると知っているのは何も俺だけではなく、気にかけられている息子自身もだからである。

「いやあ、父さん志麻の新しい友達もいいけど、あの先生にも一度ちゃんと挨拶したいんだよね。あの人だろ、お前らが世話になってる先生って」
「ちょっとオッサン俺まで親バカの範囲に入れないでよ」

やめろと止めるよりも先に、「お前らが」だなんて言ってきやがったオッサンに言えば息子みたいなもんだろなんて返される。全然違うわ。
息子の親友だからって、息子の交友関係を心配するのと同じように気にされては、他人の俺としてはたまったものではない。俺も、たぶん当の息子もである。

「つか娘は?まだ帰らねーの」
「娘は今日はバイトだよ。昼に言っただろうが」

だってのに、その息子は父に倣って勝手に人の妹を娘扱いしやがった。何を考えてるのかしらないけれど、それじゃすずながお前の妹になるぞ。

「父さんは娘と飲みたいんだよ。お前らはすぐ俺を邪険にするからなー」
「気に入らないんなら帰れよもう」
「ほらまた、そうやって」

そんな調子で口に出すのはキャラではないので心中つっこむ俺を横目に、バカ親子は無意味なやりとりを続ける。
志麻が嫌がるからたまにしか言わないけれど、これで志麻と父親はとても似ている。
考え方の根本やふとした時の気の回し方、懐に入れた人間に対しては勝手なまでにすべてを受け入れるところだとか、その他諸々。まあ、志麻に比べればオッサンの方が幾分か自分を理解してて器用で……変なところで素で無神経ではあるけれど。
碓氷くんにはあまりお見せしたくない光景だなあなんて思うのは、志麻のためというよりはどちらかというと俺の心情である。そして碓氷くんならまだいいけれど、できれば先生に会わせたくないというのは完全に俺の感情である。
このバカ親子にほだされている自分を知られるのは正直、気分が悪い。察しのいい先生のことだから、すぐに理解されてしまうだろうのが腹立たしい。

さて。

面倒くさいから二人を放っておくために、昼に話したことを思い出して徒然考えていたわけだが、だからといってこの思考が身になるわけでもないので俺はできあがったつまみを皿に盛っていく。もちろん二人は無視してだ。構ってやらずとも無意味な応酬は勝手に終わる。
声を掛けるでもなくこちらの準備ができると同時に最初の皿を食卓に運び始めた志麻を横目に、俺はバカ親父に運べというつもりで次の皿を渡した。


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