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2月14日、バレンタイン。
そんな男にとって天国地獄別れるイベントデーに、俺は、天国の部類に入るであろう位置に居た。
朝、大学に着いてから一限が必修科目だったというのもあるだろう、同じ学科の女子たちが楽しそうに義理チョコをくれたのだ。その数…十個強、くらいか。女子ってすごいよな。わざわざ義理チョコなのに手作りなんて。ま、作るのが楽しいっつーのはあるのか?大量に配るなら買うよりは安くつくんだろうし。
「いや、志麻のは義理じゃないから」
「うお」
背後から声を掛けられると同時に頭に乗せられた重さに振り返れば、友人の蓋見由岐路が居た。頭に乗せられた鞄を退けつつ、一限に居なかった理由を訊ねるとゆきじは面倒臭そうな顔をする。
「すずなが起きなくて」
「起きたよ!」
「うぎゃあっ!」
どこに隠れていたのか、後方ですらなく真正面から飛び掛かって来たすずなに、思い切り後ろに倒れた。これ、階段教室じゃなかったら俺椅子から落ちてたからな?椅子繋がってなかったら危なかったからな?
「すずな…」
「しましま押し倒しちゃった」
えへっと笑う童顔女子、蓋見珠洲那にチョップを喰らわせ、起き上がる。小柄な女子を足に乗せたまま起き上がるくらいの腹筋はあるつもりだからな。
「つかゆきじ、お前がすずなに付き合ってサボりなんて珍しいな」
膝からすずなを下ろしつつ言うと、ゆきじは小さくため息を吐き、俺の鞄を指した。チョコの入った、鞄を?
「一人で来たらお前みたいな目に合うからね」
すずなは女子避け、と言い切るゆきじ。まぁこいつは普段からモテまくってるし、高校時代からチョコとかすげー貰ってたからな。しかもゆきじは俺みたく仲がいいからあげる、ってわけではなく本気ばっかだったしな。
「それだけ鈍感だといっそ鬱陶しいよね」
「は?」
「まぁあっちも、顔はいいし優しいしからーみたいな感じで、本命だけど本気じゃないみたいだけど」
…何言ってんだこいつ。たまに何言ってんのかわかんねーんだよな、ゆきじ。少なくとも俺をバカにしてるってことだけはわかるんだが。
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