[携帯モード] [URL送信]

Sub(ss)
その舌先三寸すら虚か否か(TeamLePa)


※非ヘタレパンサー




 容赦なんてものは、産まれた瞬間に捨ててきたようなもんだよ。と、彼は言った。何事もないようにけろりと言うものだから、暫し呆気に取られてしまったのは不覚である。
 この男との具体的な距離を測ることは不可能である。辟易しつつも放置状態なので、もうどうする気も起きないと言ってしまっても大した暴露にはならないのではないだろうか。彼は入り込みたがっているようで、その実、無駄な干渉を好まない。


「単独任務ってわけか。了解」

 にこ。
 半ばウケ狙い、半ば営業的、もしくは自己満足な笑顔を見せ付けつつ、彼は標的の顔写真が載った書類をウルフから受け取った。薄っぺらい彼女にこれからよろしくねーと口付けする様をウルフはどう見ているのか、ここからではその表情は窺えない。
「長引かせるなよ」
「期間内にはやりますよって」

 黒の指先でひらひらと揺れる一枚の紙は、蜘蛛の罠にかかった蝶が足掻く様によく似ていた。

 ひゃくごじゅーはち、よんじゅーご、いいねいいね、Eカップ。
 何もかもを無責任に捉えているような口振りは素か否か。不可解を絵に描いたような男を眺めながら、私の思考は既に匙を投げていた。その労力がまったくの無駄であること、埒が明かないこと。それらを考慮してのことなのだろう。
 可愛くない?と眼前につきつけられた書類の、運転免許証か何かから拝借したのだろうと思われる照明写真。涼やかな目が印象的な白猫の雌だ。
 彼女と俺が並んだら対比が美しくどうのこうの、モノクロな感じで云々。妙に纏わりつくハエのようにうるさい御託を諫めたけれど、肩を竦めるリアクションが帰ってきただけだった。

「ネコの子の声、好きだなあ」

 か細いのも、高く鳴くのもポイント高いよね。スタイルは、俺はトリとヒョウが好きだなあ。トリはスレンダーでヒョウはグラマー、どっちも捨てがたいよ。それで声がネコでセックスがウサギだったらもう言うことないんだけど。うんぬん。かんぬん。

 饒舌を毛嫌いしているわけではないが、彼の台詞回しに些か不快感を覚えていたのは確かだ。テキトウを並べ立てたような、全てがその場凌ぎのような、軽い男の印象をそこかしこに植え付け、何をどうしたいというのだろうと、ひたすら理解しがたかった。
 笑う横顔、それすら出任せか。

「うん、まあ、…二週間だな」

 何を、とは、分からなかったが訊かなかった。けれど彼は勝手にこちらを見遣った。こういう男だ。頼まれても居ないのに、勝手に口走るその悪癖が、いつか仇にならぬと良いがと思う間もなく、テノールはこの鼓膜に響く。

「落としてから、殺すまで」

 確かにそう象った口は、確かに長方形の中を可愛いといい女だと認めた目は、確かに正しく笑んでいる。何も浮いていないその事実こそが、正しく違和感を叫んだ。



 END.





[前][次]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!