Sub(ss)
俗説になぞらえ(LeFa)下
「赤い糸って、イマドキねえよな」
へっ、と乾いた嘲笑ひとつ。彼はまた仰向けに倒れ込んだ。よだれを染み込ませる気かお前は。
「小指だっけか」
「ああ」
「小指と小指」
「そうだな」
「お前の小指ってのは、一番外側の指がそれでいいのか?」
会話がおかしい方向へ流れ出した。確かに一番外側の指がそれであるが、そんなことよりも彼の言動に思わず見遣ってしまった。ファルコは己の小指を私に見せ付けるように、床に垂直に腕を立てている。
「見えねえー」
「当たり前だろう」
今にも引っ込められそうだった腕を引っ掴んで上体を引き起こす。状況を把握できずに動揺している様が滑稽だ。私は彼の細い首に手をかけた。そしてもう片方は、自らの小指を立たせた。
「貴様と私が繋がるのは、ここだ」
もしも繋がっていればの話だが、世俗が囁く「結ばれている」だなんて、そんな優しいものではない。
これは皮膚をぶつりと破って抜け出た、太く脈打つ血管だ。はさみで切ろうと試みてもゴムのようにびよんびよんと伸縮するし、二つに折り曲げたその折り目に刃を押し付け無理を強いたって、鯨の脳のようにそのときのみ液体化し不可能となる。この男がいくら足掻いたところで、その手段全てをもってしても結果を得ることは出来ない。
切れることがあるとするなら、それは私が望んだ場合。
強者の御都合主義に則り「はいさようなら」と、それこそはさみでもカッターでもライターでも、それ用の手段であっさりと切ることが可能である。そこからおびただしい量の互いの血液が噴出し、糸は死に掛けた蛇のように無様にのたうちまわるだろう。
やがて血液の抜け切った彼と私は、折り重なるようにして静かに事切れるのだ。
言えば言うほど不快を催すその面を見ただけで、私の不機嫌は癒えた。こいつの苦虫を噛み潰したような顔を愛している。
「どうだ、見えたか?」
「…見えてたまるか」
お前の思想にはついていけないと振り払う手を制し、押し倒した。
「そうだな、ではやることもないので」
【END.】
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