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俗説になぞらえ(LeFa)上


※後半、レオンの脳内から少し血の匂いがするかも



 やることもないのでセックスをしよう。と、思い立った。そして言った。
 だが彼はそんな私のナイスアイデアを無視しつつ、一枚のDVDをずいと寄越した。まったくの無地を取り出したところを見ると、どうやら製品を焼き増ししたもののようだ。
「クリスタルが面白えって貸してくれたやつ」
 呆れて物も言えなかった。あの女とお前の趣味が一致することなど、それこそありえないだろうに。しかし笑顔のひとつも見せず、やや憮然とした表情であるところを見ると、どうやらあまり進んで見る気はないらしい。
「…どうせ惚れた腫れたがどうのこうのなんだろうがな」

 つまりは交わすための策。その場凌ぎでしかない浅はかなそれに、私は再び呆れ返ってしまった。

 そしてファルコの勘はぴたりと当たる。
 惚れた腫れた、赤い糸がどうだ、繋がっているだのいないだの、そんなことでうじうじと2時間を潰す貴様らの頭の中を開いていじくって少しはマシにしてやろうかと殺意すら沸いた。まったくもって鬱陶しい。たかがジンクスに身を任せてばかりの登場人物に我が身を重ねる愚行など、蹴り飛ばして然るべきだ。
 見てみろ、お前らが引き込もうと躍起になっていた観客のひとりファルコ・ランバルディは、その行く末を按ずる素振りなどかけらほども見せずによだれを垂らして寝ているぞ。

 …本当に私のソファによだれを垂らしてくれている。
 肘掛けに後頭部を任せ、そこからだらりと私に足を向けて口を大きく開いて寝息を立てている。これは寝息なのかいびきなのか。色気のひとつもない寝姿に、彼にとっては理不尽きわまりないのだろうが苛立った。眉間に皺が寄るのがわかる。

 手足を括りつけるか、口の中にいきなり何かつっこんでやろうか、全裸に剥いて廊下にほっぽりだしてみようか、もしくはこの隙に首輪でもつけて躾をやりなおしてやろうか。非常に魅力的な有力候補を頭上で箇条書きにしていく。あれもいいなこれもいいなと自然と顔が綻んでいくうち、不穏な空気を感じとったのか「んがッ」といびきが詰まったような声が上がった。
「ぁー…寝てたか、俺」
「無責任にな」
 悪かったよ、とは後頭部を掻きながら、また手の甲でよだれの跡を拭いながら言い切ったところでなんの説得力もない。再び湧き上がる少しの苛立ちに気づいて居るのか居ないのか、ファルコは作品の感想を訊いてきた。
「ぜってー感想求められるんだよ、めんどくさいことに」
「性描写が過激でしたとでも」
「ねえだろそんなん」
 具体的なことを求められたとて、私だってそんなに真面目に見ていたわけではない。何も思い立つこともないような作品だったと言えれば最適だ。無理に褒めるべきところを探して口にしてみたところで、それは相手の求めるものではない。大体、どんなストーリーかを把握する前に眠気に惨敗したこの男があの女と対面するにあたって必ずボロが出るに決まっている。日常会話こそ究極のアドリブの場である。脳内CPUの処理能力が可哀相な彼では、そのようなハードルの高い場面に打ち勝つことなど到底ありえない。

「運命の赤い糸がどうたら、だ」
「へえ」
「そのあとは付かず離れず、惚れた腫れた、主人公が車に撥ねられたり、その辺りだな」
「へえ」
「聞いているのか」
「おう」
 寝起きの頭に何を叩き込むことができようか。駄目もとで荒すぎるあらすじを語ってやったのは毛ほどの親切心だ、感謝してほしい。けれど意外にもぼんやりと私の発言を聞き流していただけのファルコは、それでもひとつの単語に食いついた。



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