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鳥故(LeFa)R15


※R−15






「俺らトリって生き物はよ、暑いと欲情しちまうんだよ」

「テメェが寒いと冬眠しちまうからってなぁ、んなガンガン暖房入れられちゃかなわねーんだよ!」

 胸倉を掴まれ、押し倒されている。この体制は非常に好ましくない。だがこの状況を好ましくないとする彼は、まだ限界が近いのだろう。もしくはもう突破しているのかもしれない。
 苛苛とした様子を抑えることもなく、むしろ全面に押し出し、眼前のトリは主張する。そして種の生態を暴露し、つまりは、これは今からそういったことに発展させたいという表れなのだろうが、瞳だけ見れば分かる。まさに彼が今しがた言ったとおり欲情しているようだ。
「それで、どうしたい」
「分かんだろ…」
 訊けば顔を伏せ、黙る。言いたいことを汲んでやって、実行に移してやるほど体の良い育ちをしてきた訳ではない。だんまりを決め込もうという魂胆なのだろうが、それならばご要望は却下の方向で構わないだろう。

「ガキの方がまだきちんと強請れる」
「うるせえ、とっととヤれ!」
「残念ながら、自分の希望すら素直に口に出せないような奴は好みでなくてな」

 突き放すと、すぐにでも殴りかかってきそうだったその指は離れていった。だらりと項垂れた情けない様を、可哀相だとは思わない。事に及びたくなったときにどうすべきかというのはきちんと以前に教えてあるのだから、素直に言うことをきいていれば良いものを、この意地っ張りは習わない。
 所詮こいつの理性が本能に勝つことなど出来やしない。熱い溜息を吐き、遣り過ごそうと試みているのか。力ない手のひらで顔を覆い隠そうとするのは、掴んで制した。飢えて飢えてもどかしいとでも言いたげな目は、睨みつける力も残って居ないようだ。これはいけない。誘っているというこじ付けでもって、すぐにでも助けてやりたいくらいだ。

 無駄に足掻く姿を見るのは、正直に言うと嫌いではない。むしろ好きだ。大好きだ。この鮮やかな青の奥、皮膚の裏を、どうしようもない欲求が掻き回し渦巻いている。そう考えるだけでも眩暈を覚えるのだ。プライドの高いこの男が快楽に屈する瞬間、それは私の脳が絶頂を迎えるのと同時にある。それがもう間もなくに迫る。早く落ちてしまえ。いいやまだ耐え抜け。どっちつかずの私自身の欲は、どちらにしても尽きやしない。
 恐らくは末期。初期症状が出始めた頃に危険を感知してこの場を去って居たならば、こんな簡単な罠にかかることもなく帰ることが出来ただろうに、残念ながら気を許してしまったのが彼の運の尽きだ。

「…お前、ずりぃわ」
「そうだろうな」
 諦めたように溜息を吐いて、私の上に倒れこむ。首筋に掛かる熱を帯びた吐息を合図として、脳内は秒読みを開始した。
 かつて私達が言葉も理性も持たず、所謂進化を遂げるまで、鳥類には寒冷と温暖の間を行き来する「ワタリドリ」なる種があった。彼らは暖かなところで増えるという。日が延びて暖かくなり、明るい時間が長くなる夏などは特に発情しやすいらしい。別種より比較的簡単に発情の条件が揃ってしまうのは、さぞ大変なことだろうと他人事なりにも考えたのは先祖学を学んで居た頃の話。

 つまり私は知っている。そしてこの男も、私が知っていることを知っている。
「ヤりてーならさ、そう言えって」
 なけなしの力を振り絞って、エア・コンディショナーのリモコンを手繰り寄せて眼前に突きつけ、こんな小道具使ってねえでと笑う。そんな男に付いて来たのは誰だ。そんな野暮を問うのはこの時間、もう意味を為さない。欲にぶち壊された男の眼が、真っ直ぐに私を射抜いた。



 END.




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あきゅろす。
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