Sub(ss)
アイ・ノーティス(FoFaではない)
※Sub(ss)内、「カムズ・トゥ・ライト」と連動。
家に帰った手段などは、恐らく覚えていないに違いない。所定の場所にもろくに収容しきれていないアーウィンをメインルームのモニター越しに黙視した後、グレートフォックス内居住エリアのトイレにて、便器を抱え情けない格好を曝け出したままぐったりと眠りこけている彼の元まで歩んだ。
なんたるざまだ。
しかし、無責任を責めるのは今やるべきことではない。背を軽く叩き、起こそうと試みる。べろべろに酔っ払った彼から漂う酒気は明白だ。酒臭い。眉を顰めながら起こし、己の腹に凭れかからせる。きちんと便器内に吐けたのは褒めてやるが、ならばきちんと流すところまでしろと、うんざりしながら流水ボタンを押した。トイレはいつも清潔に。張り紙でもしてやろうかと、冗談では済まされない目になっているのが自分でも分かった。
「こらファルコ、だらしないぞ」
いつもより少し朱の強い瞼が、ひくひくと生気を示す。
夢を見ているのだ。
彼が夢を見るとき、それ自体が苦痛であるかのように眉根を寄せているのですぐに分かってしまう。眉間の皺を見る限り、決して良いものではなさそうな気もするけれど、それは本人のみぞ知るところだ。常に悪夢なのだろうかと不安になる。時折ぐっと息を詰まらせたり、うう、と低く唸ったりと、目にするたびに胸がぎゅうっと苦しくなる。
果たして歩けるかどうかは分からないが、浅い眠りに浸かっているだけなら引き摺っているうちに起きるかもしれない。そうしてくれたらこちらも要らん労力を使う必要もないだろうと考え、両脇に手を差し入れた。その弾みにがくりと首が深く項垂れるのにどきりとする。
彼は起きていない。死んだように重たい。けれどあたたかい。安心する。
ここにこの男が帰ってくることに、都度安堵する。
「―え?」
そしてイヌ科の鼻先は、うなじから舞った香りに疑問を覚えるのだ。
眼前が、ぐらりと揺らぐ。
ぐるぐると触れる壁すべてを抉るようにうずまく不快感を、言い表せられる筈も、喉を競り上がる疑問を、簡潔に出来るわけもない。
ひたすらに、信じることを拒んだ。嫌でもまとわりつくこれでさえ嘘だと思い込みたがった。
なあファルコ、おまえはいったいなにをしているんだ。
「おまえのざわめいている胸の内なんて、知ったこっちゃない」と、冷たく突き放すように、目下の彼は未だ安眠を決め込んでいる。
この瞼が意思を持つこと。
それをこれほどまでに恐れたことが、かつての己に、あっただろうか。
END.
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