Sub(ss)
参戦理由(Wo→Fa)
「ウルフ、大乱闘スマッシュブラザーズ実行委員会から手紙が届いてるよ」
言いながらパンサーが手渡して来たのはA4サイズの茶封筒。受け取ってみて気付くなかなかの厚み。
「乱交がどうしたって?」
「あんた仮にも狼じゃないか…乱闘だよ、乱闘。通称スマブラってね、聞いたことくらいあるだろ?」
中を開きつつ、パンサーの一言一句を右から左へ受け流していく。
確かに噂に聞いたことくらいはある。オールスター感謝祭のようなものだったはずだ。
赤い帽子や丸い宇宙人、それにねずみポケモン辺りが「血沸き肉踊る壮絶な殴り合いを繰り広げる祭」。あながち間違っちゃいないだろう。
なにぶん興味がないので知ろうとも思わなかったのだが、またどうしてそんな有名所が自分に声をかけるのか、ウルフには皆目見当もつかない。出場者不足だろうか。
「切羽詰まってんのか天下のスマブラがよ」
「それはあんたがあんた自身に対する見方を改めなきゃなんない発言じゃないか?」
「思ったよりマイナーじゃないみたいだよ」と呆れかえるパンサーの言葉に素直に頷くつもりはない。けれど確かに誓約書に同封された書類の文中にも『絶大なる人気を博している貴殿に』とある。
「絶大とはまた過大な評価を頂いたようで恐縮デスネー」と、ウルフはわざとらしく呟いた。
一応目は通しているが余りに興味なさ気な眼である。パンサーは彼の好きにすれば良いと考えて居たが、せっかくのチャンスをわざわざ無下にすることもないと口を開く。
「やっぱり長い歴史を持つでかい会社の出したゲームの中でも、さらにそこから厳選されたキャラクターが総出演のゲームだからね、興行収入には目を見張るものがあるよ。
ゲームシステムひとつとってみても、他の追随を許さないほどに作り込まれていて根強いファンも多いみたい。第一作からフォックスは皆勤賞だしね、DXからはトリさんも出てるらしい」
ピクリと耳のみ傾けるウルフに手応えを感じ、パンサーはさらに続ける。
「そして今回また特に力を入れまくってるのが音楽。とにかくメンツが豪華でさ、すごいよ?
植松、すぎやま、イトケン、光田他多数、二十数人のプロが作曲、編曲に関わってるんだ。その道にうるさいゲー音オタクでさえ納得せざるを得ない超絶豪華なラインナップに目が離せないよね!」
あれ、おれこいつに宣伝しにきたんだっけか?
既に当初の狙いを見失いつつある。そしてなんのメリットがあるのか、思わず力んでしまった演説を振り返ること数分。
彼の発言にようやく我にかえった。が、
「出てんのか」
「ん?フォックス?」
「いや、ファルコ」
「…いや今回は知らないけど…」
なんだろう。
リーダーを遠くに感じる。
どこか様子のおかしいウルフに違和感を拭えない。なんだって彼はあんなただ目付きの悪いだけのトリに食いついているのか。
「で、なんだ。この勝負に勝ったやつは負けたやつを好きに出来るみたいなシステムがあんのか」
「ごめん、そこまで内部の事情は知らない…かな…」
「あるなら出る」
「あるなら出るの!?」
おかしい、やはりどこかおかしい。どこで打ちつけた。
確かに悪者っぽいところが高く評価できそうな出場理由だとは思う。思うがしかし話題の前半はあのファルコである。なるほどそれこそが違和感の原因か。ただそれを突き止めたところで事態の何が変わろうか、いやしかしだな、
「作ればいいじゃないか」
振り返れば奴が居た。ホットココアなど手にしつつ、レオンはウルフの隣に腰を降ろす。確かに滞在中のこの星は現在寒さの厳しい季節のようだが、艦隊の中は暖かいし何より彼には不似合いこの上ない。いっそ適温の赤い血液か何かの方がまだマシというものだ。
レオンとココア、織り交ぜてよいものではない。
「あればそれ以上のことはないだろうが、もしもないなら作ればいい」
まるで人間の出来た教師が言うように彼は言うのだが、ただよりによっていつもあんなことやそんなことを平気でぶつけてくるその口から発せられているせいか、どこか気の狂った一言のようにも聞こえた。
「そしてお前の前に平伏したトリの前で声高らかにお前は俺のものだと叫んでやれ」
「ほう」
「悔しさに歪む奴の顔、殴られ切れた口の端、虚勢のために睨み上げる切れ長の瞳」
「なるほど」
「そして都合よくアイクに斬られてしまって出来た左肩から右横っ腹にかけての服の裂け目から見えるチラリ素肌!どうしてくれよう!」
「俺ちょっと印鑑取ってくる」
へー、スマブラってサインじゃなくてインカンいるんだー。と、パンサーは思った。
現実逃避?なんとでもいえ、俺は今驚愕に打ち震えているのダカラ。
恋と何を履き違えているのだろう、彼のあの動揺っぷりは到底理解できそうもない。
もしかして自分が入る前からその事実はあったのだろうか。それとも入隊後だろうか。
どっちにしたってどうしよう。職安にかけこむ以外ないのだろうか。
その後、印鑑がないとやたら憤慨したウルフが帰ってくるまで、彼は今後の己が行く末を模索し続けるのであった。
End.
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