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副会長の親切

未鷺は消灯時間の少し前に部屋に戻って来た。
ドアの開く音で読んでいた本から顔を上げた同室の慎一と未鷺の視線が一度重なるが、互いに自然と逸らせた。

慎一はベッドの上から未鷺を隠し見た。
机にノートパソコンを広げて作業を始めようとしている。

「消灯時間厳守って言ったのは君達風紀委員じゃないか」

慎一が声をかけると未鷺は振り向いて「そうだった」と呟く。

「部屋の明かりを消せ。俺は今日のうちにやっておくことがある」

机の上にある小さなライトを付け、未鷺はパソコンに向き直った。

「何をするの」

とりあえず言われた通りに部屋全体の明かりの電源を切って、慎一は尋ねた。

「違反者の一覧を作る」
「……風紀委員って君ばっかり仕事してるんじゃない」
「決まりを厳しくして風紀委員の仕事を増やしたのは俺だ。その責任がある」

淡々と言うと未鷺は再び慎一を一瞥した。

「気にせず寝ればいい」

慎一としても明日は早く起きなければならないので寝たかったが、どうしても気になってしまう。
仕方なく枕元のライトを点けて本を読み始めた。

30ページ程読み進めたところでふと顔を向ければ、未鷺はパソコンにしな垂れかかるようにしていた。
ベッドから降りた慎一が未鷺の顔を覗き見ると、長い睫毛が縁取る瞼をつぶって、小さく寝息を立てていた。

肌きめ細かい白い頬に触りたくなるのを堪えて「菖蒲」と呼ぶが、未鷺は身じろぎすらしなかった。

室温は布団を被って寝るのに良いくらいに調節されている。
このまま寝ていたら未鷺は寒いだろうと思う。

「菖蒲」

慎一は再び呼びかけたが、起きる気配はない。
もういい、風邪でも引いてしまえ、と思い、慎一はベッドに戻った。




薄い眠りから覚めた慎一が時計を見ると、午前1時だった。
未鷺はまだ先程と同じ体勢だ。

関係ない、と思いつつも気になってしまい、慎一は再び声をかけることにして起き上がる。

「菖蒲、寝るならベッドに行きなよ」

返答はない。
寝ている未鷺は精巧に作られた人形のようだった。
それに話しかけたのが虚しく感じられる。

「ああもう」

何で僕がこんなことしなきゃいけないんだ、と思いながら、慎一は未鷺を抱き上げた。
慎一は未鷺の身長に見合わない軽い身体をベッドに横たえ、見下ろした。
いっそのこと襲ってしまおうかとも考えたが、慎一にそんな性癖がないのは彼自身が一番良く知っていた。
慎一は従順な美人がタイプだ。

見回りから帰って来たばかりだった未鷺はまだ制服姿だった。
寝苦しいだろうからベルトくらいは外してやっても良いが、その途中で目を覚まされて誤解を生むのは御免だった。

未鷺に布団だけかけてやり、慎一は頭を抱える。

「感謝してよ」

自分のベッドに入って目をつぶると、今度はすぐ眠りに落ちた。





「……の……萩野」

慎一が目を覚ますと未鷺に見下ろされていた。
下から見ても綺麗というのは凄い、と慎一は寝ぼけた頭で考えた。

「朝食の時間だ。起きろ」

そう言われて時計を見ると6時前だった。
朝食は6時から7時までと決まっている。

「……うん」

慎一は寝不足気味で頭が重かったが、未鷺はさっぱりとした顔をしている。

「よく眠れなかったのか」

慎一の顔を見た未鷺が言った。

「誰のせいだと思ってるんだ……」

誰にも聞こえないくらいの声で呟き、慎一は伸びをした。
不思議と気分は悪くなかった。

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あきゅろす。
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