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頼み


宿泊学習のメイン、自習の時間が始まろうとしていた、
夕食までの数時間、試験の成績順に分けられた三部屋でそれぞれ自習を行う。

「またな!」

野原が入って行ったのは下位クラスだ。
中間クラスの或人と上位クラスの元秋で二人きりになる。

「あの子うっさいね」
「お前のこといい奴って言ってたぞ」

元秋が鼻で笑うと或人は口の端を歪めた。

「大当りじゃん。俺結構いい奴だよ」
「知らねえな」
「そうだっけ?ちょっと話があるんだけど」

或人はにやにやして人気のない廊下に元秋を連れ出した。
元秋は時計を見て自習開始時間まであと5分はあるのを確認した。
未鷺と出会ってから時間厳守を心掛けている自分に苦笑する。

「菖蒲さんとどこまでいったの?」

勿体振る割に或人の口から出て来たのは下世話な話だった。

「やっぱお前はただの変態野郎だな」
「俺ってどこで変態認定されたんだろ。別にいいけど。ってかどこまでやったの?まさかまだ何もしてないとか?」
「報告する約束なんてしてねえぞ」
「あー、図星だー。ヘタレー甲斐性なしー」

或人は口元に手をあてて笑みを深くして言った。
それを殴りたい衝動にかられながら元秋はため息を吐く。

「うっせえな。あんな箱入りを急に押し倒せるわけねえだろ」
「あれ、認めるんだ。いがーい」
「何もしてねえこともねえぞ。最後まではあいつが許したら、だ」
「ふーん」

数回頷く或人は穏やかに微笑していた。
そういう表情をした或人は元秋には生徒会役員に劣らない美形に見える。

「ま、いいや。菖蒲さん親衛隊副隊長としてはぜひ把握しときたかったんだよ」
「お前親衛隊だったのか?」
「言ってなかったっけ?」

とぼける或人に呆れて元秋は舌打ちする。

「つーかお前、それ聞くためだけに俺の部屋来たのか?」
「違うよ!用があったんだよね、ちょっと」

或人は真顔になって元秋を見た。

「お前の同室者、気をつけて見といて」
「又出か?あいつがどうかしたのかよ」
「まだ何とも言えないけど、そういうことだから」

どういうことだ、と元秋が聞く前に或人はひらひらと手を振って中間クラスの部屋に入って行った。

或人と元秋を繋ぐのは未鷺への好意だけだ。
従うのは癪だが未鷺に関することなら放っておくことも出来ない。

元秋は舌打ちして上位クラスに入った。

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あきゅろす。
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