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ペア


『せっかくペアにするってのによ、何で俺とお前を一緒にしねえんだよ』

お前の力でどうにかしろよ、と元秋は電話で訴えてきた。

今日は補助を風紀委員室に招いての指導と役割分担が行われ、見回りのペアが発表された。
それぞれ委員と補助のペアということで元秋は当然未鷺となれると思っていたのだ。

「俺がそう決めた」

涼しい声で未鷺は答えた。

『お前、俺が補助になれば一緒にいられるとか言って、本当は人員が欲しかっただけじゃねえだろうな』
「鬼原が補助になればその前で風紀を乱そうと思う者はいないだろう」

淡々と答えた未鷺の唇は弧を描いていた。

『ま、いいけどよ』

電話の向こうで鬼原が笑った気配がする。

『バイト代はお前の体で払ってもらうからな』
「……!馬鹿を言うな」

顔が熱くなるのを感じながら未鷺が言うと、元秋は『冗談だよ』と笑った。

『そういや宿泊学習の同室者、誰だか聞いたか』
「ああ、萩野だ」

未鷺は同室者は誰でも良いと思っていた。
生徒会役員でも靖幸以外なら我慢出来る。

『あいつは大丈夫なのか』
「萩野は山口に傾倒する前は普通だった。苦手意識はない」
『そういうことじゃねえよ。二人っきりになって、お前が襲われたりしないか心配だっつってんだよ』

言いにくそうに喋る元秋に未鷺は目を丸めた。

「そこまで萩野に恨みを買ってない」
『違えよ。お前は無駄に色気垂れ流してっから危ねえんだって』
「そのようなものは垂れ流していない。誰もがお前と同じだと思うな」
『どうだか』

未鷺はむっとして電話を切りたい気分になったが、こらえて元秋にきき返す。

「鬼原は誰と同室なんだ」
『又出っていう知らない奴』
「又出とは同じクラスだ」

又出俊定(またでとしさだ)はB組でも目立たないタイプの生徒だった。
未鷺は言葉を交わした覚えがない。

それを元秋につたえようとしたところで、電話の向こうが騒がしくなった。
『元秋!一緒にプリン食べようぜ!』と元気な野原の声である。

『あー、わかったわかった!』と元秋が野原に怒鳴るのが聞こえた。
今日はこれで通話は終いだ。

『また電話する』
「ああ」

未鷺は近頃元秋の声を名残惜しく思うことに戸惑いを感じていた。

携帯をぎゅっと握って今度元秋と会える日を思った。

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