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罠か否か


テスト最終日、最後の科目が終わった教室は開放感に包まれていた。
「お前どうだった?」などと盛り上がる生徒達の中で未鷺は静かに自分に宛てられた手紙を眺めていた。

今朝、机の中に入っていたシンプルな封筒。
中には『午後12時半に調理実習室に来て下さい』と書かれた手紙が入っていた。

例の嫌がらせの続きかと警戒しながら封筒を開いた未鷺は拍子抜けしたが、これが罠である可能性も高い。
純粋に告白を目的とする手紙も未鷺は頻繁に受け取ってきたが、近頃は未鷺が男子を恋愛対象としないことが知られ、当たって砕けるチャレンジャーは少なくなっていた。

行けばわかるか、と未鷺は考え、ホームルームが終わると調理実習室の方向へ足を進めた。
元秋から連絡があるだろうから何の用事の呼び出しにしろ早く終われば良いと思った。

化学室の前を通りかかったとき、嗚咽に似た声が聞こえるのに気付き、未鷺は足を止めた。

「誰かいるのか」

引き戸を開けると暗幕が引かれて薄暗い部屋の中に、うずくまっている生徒の姿があった。

未鷺が電気をつけようとスイッチに手をかけたところで、弱々しく「つけないで」と声をかけられた。

暗さに目がなれてきて、生徒の衣服が乱れているのがわかった。
未鷺は引き戸を閉め彼に近寄った。

「……話せるか」

顔を伏せ鼻を啜る生徒に穏やかな声音で問いかける。
横に首を振った生徒を見、場所をかえるべきかと未鷺は考えを巡らす。
幸いすぐ近くの階段を最上階まで上れば風紀委員室は目の前だ。

「風紀委員室に移動して良いか」

尋ねると、生徒は頷いて衣服を正し始めた。
立ち上がろうとした彼が、腰が抜けたように動けないのを見て、未鷺は手を差し出した。

「ごめんなさい……」

その手をじっと見た生徒は小さく謝り、無機的に光る金属の輪を未鷺の右手首にかけた。

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あきゅろす。
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