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自分本位な理由


「……元気か」

未鷺が『何だ』と素っ気なく電話に出ると、元秋は迷ったすえそう尋ねた。

『普通だ』

やっぱり素っ気ない答えが返ってくる。
靖幸の前で見せた落ち込んでいる様子を見たい、電話だから聞きたい、と思っている元秋には物足りない答えだ。

『試験はどうだった』
「今日は得意科目だったからまあまあだな」
『そうか』

未鷺に手伝ってもらっている英語と古典はそれぞれ明日と明後日に控えている。

『明日に備え勉強しろ』
「未鷺」

未鷺が電話を切りそうな気配を感じて元秋は本題に進もうとする。
どうにか上手い言い方を探そうと思うが、じれったくなって単刀直入に言ってしまうことにした。

「お前が嫌がらせを受けたって聞いた。そういう嫌なことあったら俺に話せよ」
『……広まっているのか』
「広まってはねえよ、ちょっと詳しい奴に聞いただけだ」

電話の向こうで未鷺が小さなため息を吐いたのがわかった。

『お前に話して何になる』
「そ、れは……犯人を見つけたりだな」
『見つけて、どうする』
「……平和的解決を目指す」

自分で言っても嘘としか思えない、と元秋は思った。
犯人がわかったらとりあえず殴るだろう。

「話すだけで楽になるってこともあんだろ」
『俺が気落ちしていると勝手に決め付けるな』
「へえ、してねえのか?」
『ああ』

元秋は未鷺の目をじっと見て問い質したい気持ちになったが、電話なのでそれは叶わない。
自分の髪をぐしゃっと掴んで、

「あー、そんなら。俺が聞きたいから教えろよ。お前にメリットはないかもしんねえけど、俺はお前のことなら何でも聞きたいんだよ。わかったな?」

一息で言うと、電話越しでも未鷺が戸惑っているのがわかった。

『わかっ……た』

未鷺は小さな声で返事をすると、『早く勉強しろ』と付け加えて慌ただしく電話を切った。

今未鷺がどんな顔をしているのか考えて、元秋はにやっと笑った。
試験が終わった土曜日の午後からは未鷺に会える。

今は勉強するしかねえか、と元秋は携帯を置いてペンを握った。

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あきゅろす。
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