入会拒否
「きーはらー、俺数B死んだかもしれない」
テスト初日、元秋の隣の席の裕二は終礼が鳴るなり机に突っ伏した。
「お前文系だから仕方ねえだろ」
「もう文系だからってレベルじゃなくダメなんだよ!多分赤点だし。Bクラに落ちるかもなー。そしたら未鷺様観察し放題だなー」
現実逃避を始めた裕二を、元秋は半分羨ましく思った。
特待生でなくなってもこの学園に残れるのはそれなりに経済力がある証拠だ。
「昨日までは何とかなるって言ってただろ」
「それが昨日、ヤスミサ界に衝撃が起こる出来事があってね」
「ヤスミサ……?ああわかった、続けろ」
裕二が意気揚々と語ることは一つしか思い浮かばない。
靖幸×未鷺の略称だろうと元秋が気付くのに時間はかからなかった。
「靖幸様が、未鷺様のおでこに手を当てて心配そうに熱を計ってらしたとか」
生で見たかった、と裕二は悔しがる。
「……菖蒲は体調悪かったのか?」
靖幸の行動に腹が立つ前に、元秋はそこが気になった。
昨日も変わらず未鷺からの茶封筒は届いていたのだ。
「ええっと、まあ元秋ならいいかな」
神妙な顔をして裕二は元秋に顔を寄せた。
「これは未鷺様も余り言い触らされたくないだろうから秘密にしてんだけど。未鷺様、風紀委員室に自分への嫌がらせの証拠品としてぶっかけられた跡がある自分の写真持って来たんだって」
「……悪質だな」
「でしょ?それで落ち込んでるのを靖幸様が発見したってこと。愛のパワーだな!まさしく」
盛り上がる裕二の横で元秋は眉間に皺を寄せた。
「恐い顔してどうしたの?あ、元からか」
「うるせえよ」
元秋は鞄に筆箱を突っ込むと立ち上がった。
「寮戻る」
「あ、鬼原」
思い出したように裕二が口を開いた。
「あ?」
「いつ『靖幸様×未鷺様を応援する会』に入るの?」
「入んねーよ!馬鹿」
応援するどころかむしろ全力で阻止してやる、と思いながら怒鳴った。
「最近興味津々だから入りたいのかと思った。ま、入りたくなったらいつでも言えよ!」
内心ぎくりとしながら元秋は裕二をおいて部屋を出た。
未鷺のことが知りたいのだから興味津々なのは当たり前だ。
それにしても未鷺が嫌がらせに遭っていたことを聞けたのは良かった。
本人の口から聞くのが一番だが、未鷺は簡単に弱みを見せてくれない。
少しは頼りにしろよ。
個室に着くと、そう思いながら電話をかけた。
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