証拠品
テスト前日。
登校すると、未鷺は窓際の一番後ろの席に座る。
鞄から出した教科書を机に入れようとしたとき、何かが入っていることに気付いた。
不審に思いながら机の中を覗くと、一枚の写真がある。
手に取って見ると、それは未鷺の横顔の写真だった。
その写真が明らかに隠し撮りであることより、未鷺を不快にさせたのは、写真の表面に半分渇いているが白っぽい液体が付着した跡があることだった。
漂うのは栗の花の匂い。
「気をつけて下さい」と佐助が言っていたのを思い出す。
これも噂の弊害なのだろうか。
まずは仕事をしなければ、と未鷺は思う。
これも風紀を乱す行動に違いない。
写真に触っていない方の手で鞄の中からビニールの袋を取り出す。
写真をそれに入れて口を閉め、鞄に入れた。
鳥肌が立っている。
写真に触れた手が気持ちの悪いもののように感じる。
未鷺は黙って席を立つと教室を出て御手洗の水道で赤くなるほど手を洗った。
「どうした」
廊下に出て、出くわしたのは靖幸だった。
未鷺は靖幸の視線から逃げるように顔を下げた。
「顔色悪いぞ」
「いや……」
未鷺は曖昧に答えてBクラスの教室に戻ろうとする。
しかし背後から靖幸の手が伸びてくるのがわかって身を固めた。
「熱はないみたいだな」
靖幸の掌が未鷺の額に触れていた。
未鷺はその手を振り払って靖幸をを見上げる。
「ヤリ過ぎて寝不足か?」
「お前には関係ない」
苛立ちが気持ち悪さに勝って、言い返すと早足で教室に戻った。
席に着くとまた気味の悪さが戻ってきたが、靖幸に対する苛立ちの方が大きく、写真のことは放課後に風紀委員室に行くまで忘れていた。
「菖蒲さん、それ何ですか?」
「今朝嫌がらせを受けた」
「菖蒲さんが?!」
驚く委員を気に留めず、今日の日付を書いたメモを貼り付けて、写真を証拠品用の箱に入れる。
「さすが未鷺様……」
自分が被害者になっても動じない未鷺の姿に、委員達は感嘆した。
「早く仕事に戻れ」
「はい!」
この嫌がらせは一度きりで終わるだろうか、と未鷺はぼんやり考えていた。
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